甲子園の風BACK NUMBER
《史上初のドラ1バッテリー》ロッテ1位・松川虎生が小園健太と6年間目指した“最強のニコイチ”「負けたら僕が悪い」
posted2021/10/13 11:05
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Noriko Yonemushi
「第1巡選択希望選手 千葉ロッテ 松川虎生(こう)」
その瞬間、市立和歌山高校の会見場に集まっていた記者陣がどよめいた。
松川の1位指名は予想外だった。加えて、松川とバッテリーを組んできた右腕・小園健太がすでにDeNAと阪神から1位指名されていたため、史上初めて同一高校のバッテリーの「ダブル1位指名」が実現したからでもあった。
会見場に現れた松川は、「1巡目で僕の名前を呼ばれると思ってなかったので、本当にビックリしました」と、まだ信じられないでいるような硬い表情のまま言った。
指名の瞬間、松川は目を潤ませていたように見えたと、市和歌山の半田真一監督は言う。
2人のドラフト1位選手を送り出すことになったその半田監督も興奮冷めやらぬ様子だった。
「本当に僕もビックリしましたよ。小園はね、どこかから来るかなと思っていたんですけど、松川は、4位ぐらいまでにかかってくれたらと。小園が先に呼ばれてホッとして、あとは松川が、指名漏れだけはやめてくれーと願っていたんです。そんな感じやったんで、本当にマリーンズさんに選んでいただいたことに感謝しかありません。バッテリーで1位って、すごいですよね」
松川の1位指名に驚いたのは、プロの評価を予想しかねていたからだが、半田監督の松川への評価と期待は非常に大きい。
「松川はすごい選手。本当に自信を持って送り出せる選手です」
「ガギィーン」1人だけ異質な打球音
扇の要であり、チームをまとめる絶対的な主将であり、4番打者。高校通算43本塁打の打撃は、並外れたパワーと柔らかさ、そして勝負強さを兼ね備える。
「ガギィーン」
松川のバットがボールにぶつかる衝撃音は、高校生の中では1人だけ異質だった。
松川自身は、「初球から、アクションをかけられる、自分のスイングができるというのが持ち味かなと思います」と言う。
178センチ、98キロというがっしり体型だが、見た目からは想像できないほど俊敏で走塁もそつがない。守備でのカバーリングなども素早く、決して怠らない。
そして、捕手として投手の良さを引き出す頭脳と人間性。
半田監督は、「今までに見たことがない、いいキャッチャー。所作であったり、性格であったり、言葉では言い表せない何とも言えない雰囲気がある。投手のいいところをしっかり見られる眼力と人間力というのは、3年間見ていて非常に感心させられました」と言う。
県内のライバルである智弁和歌山の中谷仁監督は、昨秋3連敗を喫した市和歌山に雪辱を果たし今夏の和歌山大会を制した時も、夏の甲子園で優勝した時も、「小園君、松川君に追いつけ追い越せと、1年間必死でもがいた。あのバッテリーのおかげでうちは成長させてもらえた」と、早くからドラフト1位候補と評価の高かった小園だけでなく、必ず松川の名前も挙げた。
松川と同じく高卒ドラフト1位で捕手としてプロ入りし、阪神、楽天、巨人を渡り歩いた中谷監督が、それだけ捕手としても打者としても松川を認め、脅威に感じていたということだろう。