サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
「普通の選手で終わってしまう」J1最速優勝の中で“どん底”にいた田中碧…今だから話せる“サッカーが楽しくなかった理由”
text by
林遼平Ryohei Hayashi
photograph byGetty Images
posted2021/09/29 11:07
新天地デュッセルドルフでポジションを掴んでいるMF田中碧。28日にはW杯アジア最終予選に臨む日本代表に招集された
「振り返ると、昨年の優勝を決めた試合くらいからですね。あの時から何かスッキリしたところがあって、そんなに考えずに楽にプレーできるようになった。今までは自分がボールを受けてどうしよう、どこに立とう、どこで受けようと考えていたんです。でも、その試合の辺りから自分がボールを受けなくても、ここに立てば味方が空くし、ボールが前進するなと。ボールを前に運ぶという目的に対し、そのための手段がわかるようになった。それで立ち位置の概念を含めてゲームの見る角度が変わりました。
自分ができることをそれが生きないところで使っても有効ではないというか、必ず人によって生きる場所が異なっていて、その生きる場所をいかに試合中に見つけてそこでプレーできるかが大事なことだなと気づいたんです。そういうことを考えながらプレーするのはすごく楽しいし、そういうのを考え出してからチームを全体的に見るようになって、何か1つ、2つ階段を登った気がします」
落ちるところまで落ちたと話していたあの日から1年も経っていない。だが、「見違えるように変わった」と深く頷く。
「成長したという一言ではなく、本当に自分の中で深い気づきがあったなと思っている。そうなったことでピッチ上で見えるものも勝手に増えてきている。(サッカー全体の)見方が変わったことでこれまで見えなかったところが見えるようになったし、それで必然的にプレーの幅も一緒に増えていった感じですね」
昨年とは打って変わって、その表情には自信とやる気が満ち溢れている。真摯に、ひたむきに向き合っていたサッカー小僧が戻ってきてくれたと確信した。
「今はサッカーができれば、試合ができれば幸せです。早く試合がしたい。試合がないと本当にきついんです。月に一度、代表戦がありますよね。そこには是が非でも入らないといけない。代表に入れないとその1週間、試合がなくなってしまう。だからこそちゃんと選ばれるようにならないといけないと思います」
悩んだ分だけ、考えた分だけ、前に進んだ。「早く試合がしたい」と嬉々として言うように、サッカーを心から楽しむ姿がそこにはある。
「目指している場所はもっと高い」
もちろん、まだあの時に理想としていた「圧倒的な存在」になれたわけではない。でも、1つの壁を乗り越えたからこそ、見えた壁がある。見据えるのはもっと先。ドイツのブンデス2部から上に這い上がっていくために、やらなければいけないことがたくさんあるのを田中は知っている。
「個人としてもっと違いを作っていかないといけない。ゴールとアシスト、一番目に見える結果にこだわってやっていかないと。でも、ここで出来ないとダメだと思っています。やはり自分が目指している場所はもっと高いところにある。しっかりとプレーで示していかなければいけないと思います」
ここからは高い目標に向かって登っていくのみ。失意のどん底から這い上がってきた男は、「進化しているね」という言葉に笑顔で反応した。
「“進化した”っすね(笑)」
進化しているではなく“進化した”と言い切る。そこに自分自身に誰より期待する田中らしさが溢れていた。