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「普通の選手で終わってしまう」J1最速優勝の中で“どん底”にいた田中碧…今だから話せる“サッカーが楽しくなかった理由”
posted2021/09/29 11:07
text by
林遼平Ryohei Hayashi
photograph by
Getty Images
あれは昨年、12月上旬のことだった。
J1記録である同一シーズン12連勝や史上最速優勝を達成するなど、圧倒的な強さでリーグを制した川崎フロンターレ。紛れもなく、そのチームの中心にいた田中碧から思いがけない言葉が返ってきた。
「中盤戦以降は自分のプレーが良かったと感じられる試合が1つもなかったですね」
チームの結果とは裏腹に、田中は失意のどん底にいた。ピッチを縦横無尽に走り回りながら攻守のつなぎ目としてボールにかかわり、球際の強さを披露して守備面でも存在感を発揮する。得点やアシストも記録するなど、前年から比べると大きな進歩を遂げているようにも思えた。
ただ、田中本人にとっては「終わって自分の採点を見ると6.0を付けられているんですけど、やっている自分からしたら5.0、4.5」という自己評価だった。
チームが勝ち星を重ねる中で、自分が勝利に貢献できている手応えがない。アンカーでプレーしていても、インサイドハーフでプレーしていても、「勝利に直結するプレーをしていたか」と考えると、そうではない。「今年はもっとうまくなれる」と思っていたからこそ、そのギャップに苛まれた。
局面を変えるパスも影を潜める
「やっていて楽しくないし、下手になっているとばかり思っていました。プレーしていても自分ではないような感じだった。過去の自分と比べたりしてしまってすごく苦しかったですね。プレー面においてもメンタルに面においても、一番下まで、落ちるところまで落ちたなという感じでした」
確かに秋口から田中のプレーにキレが無くなっているのは感じ取っていた。もともとボール奪取や展開力に優れ、「止める、蹴る」の技術力が高く、チャレンジのパス以外ではミスの少ない選手だった。だが、どこかダイナミックさを欠き、シンプルなプレーにも判断が遅れる。ミスが続き、局面を変えるパスも影を潜めるようになった。考えれば考えるほど、どツボにハマっていったのである。