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戦力外から1年… 甲子園優勝→プロでタイトル獲得の38歳が「独立Lの兼任コーチ」で投げる価値とは《近鉄最後の投手・近藤一樹》
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2021/09/26 11:30
かつて近鉄、オリックス、ヤクルトで投げた近藤一樹。今は選手兼任コーチとして独立リーグ香川に所属している
「コーチは誰よりも入念に体を」
香川の近藤智勝監督は「近藤コーチは、選手に的確なアドバイスをしてくれるので、選手が成長した」と語る。
選手は「近藤コーチは誰よりも入念に体を動かしている。プロで活躍するには、あれくらいやらないといけないんだ、と意識が変わった」という。近藤一樹からたったひとこと「いい投げ方しているね」と言われただけで、投球スタイルが変わった投手もいるほどだ。
19年に及ぶ現役生活について、近藤一樹は何事もなかったかのように、淡々と語る。しかしその実績と、目の前でやってみせるトレーニング、そして試合でのパフォーマンスが、若い選手たちに無言の指導となっているのだ。
9月18日の愛媛戦、8回に味方のリードが1点差になると近藤はゆっくりと体を動かし始めた。投手コーチは自分自身だから、自分の判断で準備するのだ。わずかな球数を室内ブルペンで投げて9回のマウンドに上がり、試合を締めくくった。
近藤は、人に言われて努力したのではなく、自分の納得ずくで投球術を編み出してきた。だから選手への指導はいつも具体的で説得力がある。選手にも「わかりやすい」と好評だ。
ドラフト有望選手に「しっかり話を聞いてもらうんだぞ」
インタビューは丸亀市民球場でナイターの終了後に行った。新型コロナ禍の影響で午後9時には球場を出なければならない。近藤のインタビューが終わったのは8時40分、実はもう1人、ドラフト有望選手に話を聞くことになっていた。その選手が部屋に入ってくると、近藤は選手の目を見て、このように言った。
「9時までに終わろうとか考えずに、しっかり話を聞いてもらうんだぞ。言い足りなかったら球場の外へ出てから話してもいいから、言いたいことは全部話すんだ」
その選手は自分が直接担当する投手ではなく野手だったが、近藤コーチは「しっかりアピールするんだぞ」と言ったわけだ。見方を変えれば、筆者に「時間を気にせずしっかり話を聞いてやってくれ」と言っていることにもなる。
筆者は少しばかり、じーんとした。近藤一樹はいい指導者になるのではないかと思っている。
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