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戦力外から1年… 甲子園優勝→プロでタイトル獲得の38歳が「独立Lの兼任コーチ」で投げる価値とは《近鉄最後の投手・近藤一樹》
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2021/09/26 11:30
かつて近鉄、オリックス、ヤクルトで投げた近藤一樹。今は選手兼任コーチとして独立リーグ香川に所属している
35歳の2018年には最多の74試合に登板。7救援勝利35ホールドの42ホールドポイントで、最優秀中継ぎ投手にも選ばれる。プロ17年目での初タイトルだった。
2019年も59試合に投げ、19ホールド。セットアッパーとして粘りのピッチングを見せる。2020年は20試合の登板にとどまったものの、本人はまだ投げる気満々だった。
「全然投げられる」と思う中での戦力外通告
しかし、そのオフに戦力外通告を受ける。
「自分では全然投げられると思っていた。来年は、どう投げようかと考えていたので、カットされたときはショックでした。心の整理ができなかった。まだ投げられるのに、どうしようかなと思っていたんです」
トライアウトにも挑戦して好投を見せたものの、NPB球団からのオファーはなかった。そして香川オリーブガイナーズから声がかかった。
「香川球団さんから“コーチでどうか”とお声をかけていただいたんです。僕は選手一本でいくつもりでいたんですが、指導者にも興味はありました。肩書はなんであれ、後輩にアドバイスすることも一つのチャレンジだな、と思いました」
投手兼任コーチとして入団が決まり、シーズン前から選手の指導に当たった。
「合同自主トレも指導しました。チーム全体のトレーニングコーチのようなこともしたんですね。体力強化をしないと、シーズンは乗り切れませんから。そのことを若い選手たちに伝えました」
「近藤で打たれたら仕方ないと思ってくれる」
シーズン開幕後、前半はあまり登板機会はなかったが、後半戦はクローザーを務めている。9月17日時点で、19試合に投げて0勝1敗7セーブ、防御率2.70の成績を残している。
「選手としては『先発でも、敗戦処理でも、どこのポジションでもやりますよ』と言っていたんです。前半は若い選手にクローザーをやらせていたんですが、うまくいかなかった。勝つところで勝てないことが多かったので『僕、行きますね』と志願しました。チームとしては、近藤が打たれたら仕方がないと思ってくれるので」
今季のNPBは例年より1カ月遅く、トレード期限を8月31日に設定していた。また昨年は元阪神の歳内宏明が香川で「無双」と言われる好投を見せて、シーズン中にヤクルトに復帰が決まった。近藤一樹にも期待がかかったのだが……。
「NPBが38歳の投手を必要とするかどうか、ということでしたね。それよりも、今年1年を全力でやり切って、それから考えるという感じです。前期は優勝しましたから、まずはリーグチャンピオンを目指したいですね」