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「あなたを殺させるわけにはいかない」ミャンマー代表GK《難民認定》までの壮絶な経緯と支援者、J3クラブの厚い友情とは
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph byKentaro Takahashi
posted2021/09/18 17:01
Y.S.C.C.横浜のフットサルチームに加入したピエリアンアウン
「あなたを殺させるわけにはいかない。帰国してはいけない」というSNSを通じた熱心な説得によって残留を決めた。そして今、「私のやったことなど、ちっぽけなこと」と繰り返すのは、自分が少なからず内戦状態になる祖国よりも、安全な日本に定住できることに対する心咎めである。
憂国のGKは担当の空野佳弘弁護士と共に、大阪入管の2階フロアーにある難民認定審査のカウンターに赴くと、右奥の別室に導かれた。難民申請受付票を横浜に置いて来てしまったことが判明したが、それは後日、郵送することでクリアになった。4年前に収容者を後ろ手錠で縛り、長時間放置したことで拷問ではないかと賠償請求をされている悪名高い大阪入管も、この日は高圧的な対応を避けたようだ。
申請から2カ月、異例のスピード認定の理由
やがて、ロビーに現れた本人の右手には難民認定証明書があった。申請から2カ月というスピード認定、定住者としての資格期間は5年という長期。これはどちらも異例である。
ちなみにピエリアンアウンの支援者として、この日も随行していたミャンマー難民のアウンミャッウインは申請から認定までに2年かかり、その間に38回ものヒアリングを要求され、その都度出頭させられている。2020年に日本で難民認定が下りたケースは、たったの46人しかおらず、現在も難民認定を申請中のミャンマー人は約3000人に上っている。
今回のスピード認定の理由について、空野弁護士はこのように明かした。
「通常、日本で難民認定がなされないのは、帰国した場合に迫害される脅威があることを申請者本人が証明しなくてはならないので、それが困難なことだが、ピエ(空野弁護士はこう呼ぶ)の場合は国際大会で3本指を出した映像が確固(たる証拠)として残っている。そして国軍が抵抗者を逮捕、殺害しているミャンマー国内の厳しい状況も日本政府はすでに承知している。入管は認定の判断を迷う事は無かったはずだ」
空野はかねてより、「これだけの明確な事由が揃っているピエを難民認定しなくて誰をするのだ」という言い方をしていた。今年3月にタイで行われた国際的ミス・コンテストで同じミャンマー代表のハンレイがステージでの国軍の民衆虐殺を告発するスピーチを行なったが、そのハンレイもまたピエリアンアウンの行動には「彼の勇気は凄いことです」と称賛を惜しまなかった。
新たな日本のチームメートは全員温かかった
しかし、ピエリアンアウンは14時からの司法記者クラブでの記者会見でも「自分のやったことはちっぽけなこと」と繰り返した。会見中も笑顔はほとんど無かった。
表情がやや和らいだのは、天満橋に会場を移して行われた18時からの激励会だった。