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「あなたを殺させるわけにはいかない」ミャンマー代表GK《難民認定》までの壮絶な経緯と支援者、J3クラブの厚い友情とは
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph byKentaro Takahashi
posted2021/09/18 17:01
Y.S.C.C.横浜のフットサルチームに加入したピエリアンアウン
ヤダナーボンユナイテッドはピエリアンアウンが所属していたチームであり、ウィンナインソーはチームメイトであった。殺人事件は確かにあった。8月18日に同地区のウー・アウンスェトゥン地区長が事務所で銃で撃たれて死亡するという事件が起きていた。すでに犯人は逮捕されており、一件落着かと思われた。
ところが、拘束中の逮捕者が取調べに対して『地区長の殺害はウィンナインソーに命じられてやった』と供述したというのである。
この供述により、「ウィンナインソーは全国指名手配をされて逃走中」と国営新聞が報じた。ピエリアンアウンの難民認定の翌日に発表されたことも奇妙な符合であるが、それ以前に現役サッカー選手が殺人教唆を行なうという、にわかには信じがたい出来事が国軍によって発表されたのである。さらにピエリアンアウンによればウィンナインソーはキャプテンではなかったということで、この1点からも雑な指名手配、そして報道である。
しかも独立系メディアであるミッジマが伝えたところによると、殺害に使用されたのは、軍の将校クラスでないと保持できないスイスSIG社の9mm軍用拳銃ザウエルであった。この事実から犯行自体が国軍の自演ではないかというミャンマー人の識者もいる。
現在のミャンマー当局は、冤罪による逮捕でも拷問によって自白に追い込むことは、インセイン刑務所に収容された政治犯の証言からも知られている。今回の発表についても密室で行われた取調べによる供述であり、ミャンマーのサッカー選手たちに対して国軍による脅迫という意図があっても、何ら不自然ではない。
支援者も「車いすの母親とお姉さんが逮捕リストに」
日本で献身的に動いて来た支援者のアウンミャッウインにも、後難は襲って来た。ミャンマーの地元ヤンゴンで暮らす幼なじみのAが、GAD(行政指導管理局)から入手した情報をこう伝えて来た。
「サッカー選手を助けたことで、お前(アウンミャッウイン)の名前が挙がって、お前の母親とお姉さんが国軍の逮捕リストに載っている。気をつけろ。まだ家族が逮捕されていないのは手が回らないだけだ。そのうち順番が来る」
リモート取材に応じたAによれば、今、国軍が逮捕の優先順位の1番手に挙げているのは民主化勢力のCRPH(連邦議会代表委員会)とNUG(国民統一政府)の前国会議員たち、2番目が武器を持って立ち上がったPDF(国民防衛部隊)のメンバー、3番目がゲリラデモをする民衆だという。
「日本にいるアウンミャッウインを逮捕できないから、その家族を代わりに逮捕して見せしめにするつもりなのだ」
「それでもピエリアンを助けたことを後悔はしていない」
その逮捕が実行されれば、以降、難民を助けようとする在日ミャンマー人に対する強烈な脅しとなる。「救済に動いたら、ミャンマーにいるお前の家族もこうなるぞ」という卑劣な行為である。Aは「家族をヤンゴンから逃がした方が良い」と忠告して来た。それでもアウンミャッウインはこう答えた。