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「あなたを殺させるわけにはいかない」ミャンマー代表GK《難民認定》までの壮絶な経緯と支援者、J3クラブの厚い友情とは
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph byKentaro Takahashi
posted2021/09/18 17:01
Y.S.C.C.横浜のフットサルチームに加入したピエリアンアウン
シドニー五輪テコンドー銅メダリストの岡本依子からのお祝いを受け取り、支援者からの激励の言葉を受ける段になって笑みもこぼれてきた。会に向けて、練習生として所属しているJ3のクラブY.S.C.C.横浜の吉野次郎代表からの動画メッセージ、そして同じくY.S.C.C.フットサルチームの渡邉瞬GMとチームメイトからのメッセージにも頬を緩ませた。
渡邉が「アウン(渡邉はこう呼ぶ)、認定がおりて良かったと思います。これから日本の生活で大変なことが多いと思うけど、Y.S.C.C.の仲間がついているので、切磋琢磨して行こう。皆からのメッセージを」と話し、カットが変わると練習場で全選手がひな壇に集っている様子が映し出され、次々にエールが送られた。
「サッカーとフットサル、違いはあるが、僕たちファミリーがたくさん助けます!」
「俺がついているからしっかりトレーニングしていこう!」
「俺ら全員がYSCCファミリーとして味方でいるので、日本で楽しく過ごして行きましょう!」
そして最後に全員で「アウン、これからもよろしく~!」
練習参加後から積極的にコミュニケーション
フットサル選手たちから発される言葉の意味をその都度、日本語が堪能なアウンミャッウインが翻訳して伝えると、ピエリアンアウンは静かに頷きながら、照れた笑いを何度も浮かべた。監督、GKコーチ、そして選手とすでに密なコミュニケーションが取れているが故の照れ笑いだった。
この元ミャンマー代表を巡る報道では、J3に練習生として入団というニュースが前面に出ていたが、代表の吉野は、出場機会と現実的なプロ契約を視野に入れて、フットサルの練習参加も選択肢に加えていた。サッカーの方では現在、5番目のGKという位置付けであるが、フットサルはレギュラーを狙える位置にいる。
提案を受けた本人もフットサルに集中したいという意向を持ち、この競技1本に絞っていた。初めて練習に参加した8月2日から、選手たちは積極的なコミュニケーションを図って来た。難民認定を我がことのように喜ぶチームメイトからの激励・エールは、日本人支援者たちが見ても嬉しくなるようなポジティブなものだった。
国軍評議会が発表した「殺害指示」の不自然さ
異変が起こったのは、直後からだった。難民認定がなされた翌日の8月21日、ミャンマー国軍評議会が「サッカークラブ=ヤダナーボンユナイテッドのキャプテンであるウィンナインソーが、マンダレー市のパッコンウンチン地区の地区長の殺害を指示していた」と発表したのである。