野球のぼせもんBACK NUMBER
「代打なのに、なんで振らないの?」問題…ホークス松田宣浩38歳が12年ぶり代打ヒット、同級生は「俺の気持ちが分かったか?」
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKYODO
posted2021/09/01 17:04
8月22日のロッテ戦。同点の8回2アウト一、二塁で代打・松田宣浩が1球目をバチンと捉え、2点二塁打
当たり前だったことが、自分の中から消えてしまった苦しみを胸に抱え込んでいる。ファンが入場する前の練習時間、明らかに松田に元気がないように見えた日がいくつもあった。
だけど、そんな時は周りが支えてくれた。特に存在が大きいのが同級生の川島慶三だろう。
「どうだ、俺も気持ちが分かったか?」と茶目っ気交じりでイジる。こんなこと、松田に面と向かって言えるのは川島だけだ。イジるけど、そこには愛がある。心を覆っていた氷が溶けていくような魔法の言葉だった。
工藤監督は「たとえスタメンを外れても、松田がいつも盛り上げてくれる。本当に頼もしい」と最敬礼する。
そんな監督の言葉を聞いて、松田はニカッと笑った。
「いや、それがなくなったら、僕『終わり』なんでね」
チームの勝利のために、今日も松田は声を嗄らす。
「毒舌というか、若手には真似できないようなことを言ってますよ(笑)。それも16年間やってきた中で経験したこと。チームにとってプラスだと思うし、同じ方向を向く中で『声』は大切だと思うので」
そう言いながらも、もちろん一人のプロ野球選手としての自分を諦めるはずもない。最近は練習中に行うティー打撃の中で、わざとボールの下をこすって真上に高く上げるように打つ取り組みをしている。
「後半戦、打った打席だけでなく、凡打でもいい形になっているのはこの練習法のおかげかなと思う。(バットを)下から振る、上から振る、平行で振ると迷っていた自分がいたけど、ノートを見返してみたら、若い頃にボールの下をわざと打つ練習をやっていた。そうなるとアッパー(スイング)やダウンでは打てん。レベルで振らないと。良い感じの練習法も見つかったから継続したい」
熱男は熱男であり続ける限り、終わりなんてまだ見えない。