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「代打なのに、なんで振らないの?」問題…ホークス松田宣浩38歳が12年ぶり代打ヒット、同級生は「俺の気持ちが分かったか?」
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKYODO
posted2021/09/01 17:04
8月22日のロッテ戦。同点の8回2アウト一、二塁で代打・松田宣浩が1球目をバチンと捉え、2点二塁打
「(ボールを)見ていこうという考えもありました。だけど、今の野球はどんどん初球からストライクを取ってくるようになっている。投手のスピードも上がっているし。甘い球が来るのは1打席に1球あるか、ないか。それならば簡単に見逃すのはもったいないので、スイングを仕掛けていって、そのうえで打てたか、打てなかったのかという勝負をしたいと思ったんです」
それに、と松田は言葉を継ぐ。
「持ち味は初球の甘い球をどんどんスイングして、しっかりと自分らしい打球を飛ばすこと。自分らしい打席でした」
さも当たり前の仕事をしたとばかりに、試合後の囲み取材ではいつもの早口といつもの調子で振り返った。
しかし、代打で安打を放つのは「いつも」の事ではなかった。松田が代打安打を放ったのは、じつに2009年シーズン以来なので、自身12年ぶりのことだった。
「試合に出ない日も多くなった」連続試合出場“815”でストップ
今季がプロ16年目。大卒即戦力と言われながら当初は苦労をした。「僕の中では初めてフル出場してゴールデングラブ賞も獲れて、日本一にもなった2011年が転機。あの年を境に本当の意味でのプロ野球選手になれたと思う」と常々話している。ホークスもその年以降、黄金期を謳歌している。昨年までの10年間でリーグ優勝5回と日本一7回を数える。
レギュラーとして、不動の三塁手として、チームの中心打者として、松田がそこに居るのが当たり前だった。2015年からは5年連続シーズンフル出場も記録した。
しかし、昨季から打撃が低迷。昨年9月10日のイーグルス戦で、7シーズンにまたがり継続していた連続試合出場が「815」で途切れた。
今季もなかなか打率が上がらず、この夏場は2割3分台に落ち着いてしまっている。また、今季13号本塁打が通算300本塁打の金字塔になるが、以前のペースならば前半戦のうちに達成できるはずの数字だった。
「代打とか、試合に出ない日も多くなりました。だけど、試合前練習はいつもと変わらずやるし、試合開始10分前のルーティンも関係なくやって、その日の出番に備えています。与えられたところでやるだけ。それ以外に何も変わらない」
自分に言い聞かせるように、松田の語気が少し強まった。
「どうだ、俺の気持ちが分かったか?」
お茶目な天然キャラというのが、松田の一般的なイメージだろう。無観客の誰もいないスタンドにだって「熱男~」を叫び、自身のニックネームをお立ち台パフォーマンスにして「1、2、3、マ~ッチ」とチームメイトも巻き込み拳を突き上げる。よほどの強心臓でなければ成し得るはずがない。
しかし、ああ見えて、じつは繊細な男なのだ。