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「代打なのに、なんで振らないの?」問題…ホークス松田宣浩38歳が12年ぶり代打ヒット、同級生は「俺の気持ちが分かったか?」
posted2021/09/01 17:04
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
KYODO
代打は難しい。
その理由をイチイチ挙げれば枚挙にいとまがないが、かつて“タカの一振り稼業”で鳴らした大道典良(現ホークス二軍打撃コーチ)が当事者目線としてこんな話をしてくれたことがある。
「代打の選手ってベンチ裏のミラールーム(素振り部屋)から打席に向かうイメージかもしれないけど、それじゃ打つのが難しくなる。部屋の照明と球場の明るさが全然違うからね。だから俺は、自分の出番がいつ頃か予測をして少し早めに準備を整えておいて、出番の直前まではベンチの隅っこの最前列で待機する。体を温めたら最後に大事なのは目慣らし、だったね」
代打の鉄則はまず初球を狙うこと。だが、大道の言葉をかみ砕けば、代打屋は打席の環境に順応するのが大変なのだから初球からジャストミートするのがいかに難しいのかが分かる。我々は「なんで振らねぇんだよ」などと簡単にヤジを飛ばしてはいけないのだ。
じつに12年ぶりの“代打安打”だった
だがしかし、あの日の松田宣浩は初球を狙っていた。そこに寸分の迷いもなかった。
8月22日、PayPayドーム。同点の8回2アウト一、二塁で甲斐拓也の代打を告げられた松田が、マリーンズ・ハーマンの投じた1球目をバチンと捉えた。打球は左翼手の頭を越えてフェンスに到達。見事な勝ち越し2点適時二塁打だ。打った松田は二塁ベースで会心の笑みを浮かべてガッツポーズ。ベンチでは工藤公康監督も右拳を突き上げ、チームメイトたちもファウルグラウンドに飛び出して喜んだ。この盛り上がりが、チームの救世主になったことを物語っていた。
後半戦4戦無敗スタートを切ったが、そこからマリーンズに2連敗。しかも、2試合とも9回に勝ち越されての敗戦で、特に前日の試合は途中5-0とリードしながらの痛恨過ぎる逆転負けを喫していた。
4位で迎えた後半戦のペナント再開は、ホークスとしては8年ぶりだ。残り試合が減るごとに目前の1試合の重みが増すことを誰よりも知るベテランは「絶対に(同一カード)3連敗だけはしてはいけないと思っていた」と気迫をみなぎらせていた。
それにしても見事に初球を捉えたものだ。ただ、そこには松田なりのポリシーがあった。