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松岡修造も脱帽…「嘆き悲しんでる暇があったら、楽しくしていよう」パラ水泳・辻内彩野の“超前向き”メンタル 

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松岡修造

松岡修造Shuzo Matsuoka

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photograph byYuki Suenaga

posted2021/08/24 17:01

松岡修造も脱帽…「嘆き悲しんでる暇があったら、楽しくしていよう」パラ水泳・辻内彩野の“超前向き”メンタル<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

進行性の目の難病「黄斑ジストロフィー」に冒された辻内彩野選手。目の前の松岡さんの姿ははっきり見えなくても“熱さ”は’しっかり感じている

辻内:眠いときって寝ちゃうんですよ、泳ぎながらでも。目をつぶっちゃう癖があって(笑)。

松岡:寝ながら山とか24時間歩く人の話は聞きますけど……。

辻内:そっちの方がすごい(笑)。朝練のビート板キックのときとか、よく寝ます。「あー、眠いなー」って思いながら泳いでいて、目を開けたらあとちょっとで壁だって感じで。

松岡:今、僕は自分の中にあるどの神経で彩野さんと話せばいいのか、すごく迷っています。彩野さんの感覚に合わせるのに必死です。

辻内:申し訳ないです(笑)。

気持ちを切り替えるブラックノートとは

松岡:今まで見えていたものがどんどん見えなくなっていくというのは、メンタル的に落ち込むこともあると思うんですが、それはなかったんですか?

辻内:「嘆き悲しんでる暇があったら、楽しくしていよう」というのが病気になる前から私の中にあって。競技もそうですし、生きていくのもそうですけど、「楽しんだもん勝ち」がモットーなので、とりあえず今やれることを全力で楽しもうという考え方をしています。

松岡:すみません、そんなにすんなり言わないでいただけますか(笑)。それって、とんでもない前向きな言葉ですよ。もっと「何で私が」とか「もし目が見えていたら」って思うのが普通です。僕も選手時代、怪我をするといつも「何でオレばかり」って思っていました。

辻内:「もし見えていたら、車を運転できただろうな」とか「もうちょっと好き放題、いろんな事ができたのにな」とか「バイトも職種を選ばなくても良かったかな」というのは、たまにちょっと思うことはありますよ。でもそれは病気が原因というより、どんなに練習しても泳ぎの感覚が良くならないときとか、日常生活で良くないことが続いたりしてネガティブな方に思考が傾いているときです。それも3カ月に1、2回あるかないかぐらいで。

松岡:どうしても気持ちを切り替えられないときの解決方法って、あるんですか?

辻内:実は「ブラックノート」を作っていて(笑)。とりあえず、嫌だと思ったことをどんどん書き出して、その周りになぜそうなったのかを思いつくままにバーッと書き出すんです。だから、嫌なことを書くのはちょっとスペースを空けてとか、1ページに1個とかいうふうにして。あとで見返すと嫌なことを思い出しちゃうから、書き終えたらビッビッ! って破り捨てます。

松岡:それって、メンタルトレーニングの一つの方法論なんですよ。僕もジュニアの選手たちに「今から今日の試合でマイナスだったと思うことを書き出して、そして書いたら捨てちゃえ」って言っています。彩野さんはどこで学んだんですか?

辻内:自己流です。頭で考えるのが得意じゃないので、とりあえず書き出す作戦で始めたら、わりと良かったので、パラ水泳を始めたぐらいのときからずっと続けています。強化選手になってからなので、2017年の年末とか2018年の年明けぐらいかな。今までにノート2冊ぐらい破り捨てました。

(構成:高樹ミナ)

#3 パラ水泳転向直後に日本新記録!辻内彩野のモチベーション「高校生の頃の自分に勝つ」に修造が見たアスリート魂 に続く

 辻内彩野(つじうち・あやの)

1996年10月5日、東京都生まれ。小学3年で水泳を始める。大学1年のときに視力低下や視野異常を起こす進行性の難病「黄斑ジストロフィー」と診断され、2年のブランクを経て2017年にパラ水泳へ転向。直後のジャパンパラ大会では3種目で日本記録を更新し1位に。19年には世界選手権に出場し、女子100m平泳ぎで銅メダルを獲得。今年3月の日本選手権で50m自由形の派遣標準記録を突破し東京2020パラリンピック日本代表に選出された。現在、10種目で日本記録、うち3種目ではアジア記録を保持している。三菱商事所属。

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