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「町田は代表で干されてますね…」162cm町田瑠唯が4年間の“控え生活”から大逆転、五輪ベスト5に選ばれるまで《女子バスケ》
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2021/08/20 11:05
東京五輪6試合で75アシスト。大会ベスト5にも選ばれた町田瑠唯(28歳)
オリンピックの6試合で挙げたアシストは実に75、グループステージ最終戦のナイジェリア戦で15、準々決勝のベルギー戦で14、準決勝のフランス戦ではオリンピック記録となる18をマークし、世界に町田の名前をアピールした(準決勝の中継ディレクターは、何かというと町田を映していて、すっかり町田に魅了されてしまっていたはずだ)。
しかも、町田自身がゴール下でアクロバティックな動きを見せてのレイアップ、スペースがあれば3ポイントを沈める。これはまさにホーバスHCが望んでいたPGではないか。
実は、町田の長所は日本人相手には発揮されにくいところがある。最終合宿に参加していた宮崎、安間志織(トヨタ自動車)は同じく小柄でスピードがあり、町田のスピードに対応できる。
しかし、オリンピックで明らかになったのは、町田よりも大柄なPGは「逃がすものか」と追いかけるのに精いっぱいで、かなり消耗するということだ。同型のPGが多い日本よりも、海外勢に対する方が162cmの町田の威力が発揮できた。
また、トーナメントを通して30分以上プレーすることはなく、消耗が抑えられたのも大きい。それは控えの本橋、宮崎が自分たちの役割を果たしたからだ。
本橋は奇跡の復活と言ってよかった。苦しいリハビリに耐え、チーム入りを果たした。2018年以降、ホーバスHCは本橋で勝ってきた。万全の状態でないとしても、本橋を信じていたのだろう。実際、オリンピックでの本橋はオフェンスが重たくなる時間帯の打開策として効果的で、決勝でも投入されるといきなり3ポイントシュートを立て続けに決めるなど、度胸たっぷりだった。
また、宮崎は高校時代から圧倒的なスピードが武器だったが、世界でも通用することを示し、次回のパリ大会へとつながる経験が出来たはずだ。
こうして2017年以降の「日本代表PG略史」を綴ってきたが、3番手だった町田が先発の座をつかみ、銀メダル獲得に貢献したのは、選手のケガ、あるいはホーバスHCが最終局面で見せた柔軟性など、偶然と偶然がもたらした「必然」だったように思う。
町田瑠唯はバスケットボールだけでなく、オリンピックを見渡しても、エキサイティングな選手のひとりだったとしみじみ思う。
とにかく、いいものを見せてもらった。