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「町田は代表で干されてますね…」162cm町田瑠唯が4年間の“控え生活”から大逆転、五輪ベスト5に選ばれるまで《女子バスケ》
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2021/08/20 11:05
東京五輪6試合で75アシスト。大会ベスト5にも選ばれた町田瑠唯(28歳)
「今回はスモールラインナップであえて小さくし、スピードをさらに生かして攻めるスタイルにも挑戦しています」
町田のふたつの発言を総合すると、オリンピックが3カ月後に迫ったこの時点で、ホーバスHCは1番手となった町田には得点力を期待するのではなく、彼女の「クリエイター」としての役割を尊重していることが見えてくる。
おそらく、この時点でホーバスHCは「町田で行く」と腹をくくるしかなかった。
重要なのは、システムに町田を寄せるのではなく、町田のスピードとアシスト力を生かすプランを戦術に積極的に取り入れたことだろう。
その流れで、町田がいう「スモールラインナップ」が重視されるのは必然だった。2020年12月、皇后杯の準々決勝で日本代表の屋台骨を支えてきた身長193cmの渡嘉敷来夢が右膝前十字靭帯断裂の大ケガを負い、オリンピックが絶望的となった。
渡嘉敷はディフェンスリバウンドの要だったが、リバウンダーはすぐに養成できるものでもなく、チームで乗り切るしかない。さらなる失点を覚悟しなければならないが、それならば、時にはスモールラインナップを組んでスピードを生かし、シュートの確率を高める戦術に積極的に取り組んでいこう――という姿勢が見える。
最終合宿を経て残ったPGは町田、本橋、そしてスピードを買われた宮崎早織の3人だった。
そして迎えたオリンピック本番。
押し出されるようにして1番手となった町田だったが、大舞台でクリエイターとしての能力をいかんなく発揮した。
それが可能になったのも、ケガで出遅れていた宮澤夕貴と林咲希のスリーポイントシューターがギリギリでオリンピックに間に合い、高田真希、赤穂ひまわりらのレギュラー陣も3ポイントの確率を高めていたからだ。
まさに薄氷の上を踏むようなチーム編成だった。これ以上、誰かひとりでも欠けたら、チームは違った集団になっていただろう。
そして、4月の時点でホーバスHCが掲げていた「80点以上、3ポイント40%以上」はほぼ実現した。
日本の6試合での平均得点は82.1、3ポイントの確率は190本打って73本の成功で38.4%を記録した。ちなみにアメリカとの2試合の3ポイントの確率は27.9%と極端に低く(18/69)、それ以外の4試合では45.5%の高確率(55/121)を記録している。アメリカ以外の国には、日本のオフェンスは大きな戦果をあげたのだ。
TVディレクターも町田に“魅了された”
それにしても、町田瑠唯である。
あれだけのパフォーマンスを見せると、誰が予想しただろうか。