2人が「純粋な水泳大好き少年」に戻った日

　その後、大学生になっても萩野と瀬戸のライバルストーリーは続き、その第2幕となったリオデジャネイロ五輪では、400m個人メドレーで萩野が金、瀬戸が銅メダルを獲得し、ダブル表彰台を飾る。

　少しの幕間を挟み、東京五輪に向けた第3幕では瀬戸も萩野も、公私ともに大きな変化と苦悩が続いた。周囲とのギャップに悩み、泳ぐことを楽しいと思えなくなった萩野。自分の責任ながら、純粋な気持ちで泳ぐことを楽しめなくなっていた瀬戸。

　そんなふたりが、ひとつのゴールとして考えていた東京五輪の200m個人メドレーの決勝で、純粋な水泳大好き少年に戻った。

　レベルの高い大会に出場することが楽しくて、そこで戦えることが面白かった小学生時代。ライバルに勝つことがうれしくて、負けたら悔しくて、また勝ちたいと純粋に努力をし続けてきた中学時代。世界を知って、上には上がいることを知って、ふたりでもっと世界で戦えるようになろうと誓い合った高校時代。世界最高峰の五輪という舞台で、ふたりでメダルを獲得した大学時代。

　ずっと、純粋に水泳が好きだった。泳ぐことが大好きだった。萩野がいたから、瀬戸がいたから、水泳が好きでいられた。そんな少年時代を今、思い出したのである。

「全力は尽くせたのでスッキリしています。世界大会で久しぶりに公介とグータッチして入場して心強かったです。メダルは獲れませんでしたけど、それ以上に幸せな時間を過ごせました。公介と一緒に夢の舞台で泳ぐことができて幸せですし、一緒に戦えたことが幸せでした」（瀬戸大也）

「大也とずっと一緒に泳いできて、その最後、東京の舞台で泳げて幸せでした。全力は出し切ったので、今の自分に悔いはないです。難しい時間を過ごしてきた中で、最高峰の8人に入れて、そこでまた争うことができて、競技者としてこれ以上の幸せはないです」（萩野公介）

　これからは、異なる道を歩み始めるふたり。願わくばまた交わってほしいが、それは野暮というものだろう。

　ふたりの心は、きっとこれからも常に一緒に、切磋琢磨を続けるのだから。彼らの青春は、終わらない。

レースを終えた2人には、笑顔があふれていた　©Asami Enomoto/JMPA

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