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「スマン、こんな晴れ舞台慣れてない」 警察官なのにタトゥーでヤンチャなイタリア人が“大波乱の100m最速男”になるまで《東京五輪》 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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photograph byAsami Enomoto/JMPA

posted2021/08/06 17:02

「スマン、こんな晴れ舞台慣れてない」 警察官なのにタトゥーでヤンチャなイタリア人が“大波乱の100m最速男”になるまで《東京五輪》<Number Web> photograph by Asami Enomoto/JMPA

ジェイコブスのあっと驚く金メダル。ボルトが去った後の五輪100mの最速男は、面白エピソードの持ち主だ

高校で喧嘩に明け暮れ、20歳で一児の父親

 10歳で陸上競技を始め、とりわけ走り幅跳びに夢中になった。「中学では問題行動ばかりで1年落第。高校では喧嘩に明け暮れた。ちゃんと卒業はしたよ」(ジェイコブス)。さんざん母親を嘆かせたが「陸上で食えるようになる」という決意だけは固く秘めていた。

 19歳で国内ジュニア記録を塗り替えた。だが、翌年20歳で1児の父親になったのにパートナーと別れるなど私生活が安定しない。ジェイコブスには本物の指導者と高いレベルの練習環境が必要だった。

 転機は現在のコーチ、パオロ・コモッシとの出会いだ。74年生まれのコモッシは、01年インドア世界選手権三段跳びの王者でシドニー五輪にも出場している。15年秋から始まったコモッシとの二人三脚はすぐに実を結び、翌16年、ジェイコブスは追い風参考記録ながらイタリア歴代1位タイの8m48を跳んだ。二刀流で進めていた100mでも10秒23を出したことで自信をつけた。

 左太もも二頭筋の故障により、リオ五輪は断念せざるをえなかったが、ジャンプによる膝軟骨の摩耗を憂えていたコーチは、これを機に競技を絞るようジェイコブスへ進言、2人は100mで再起を誓った。

故郷にできた“2600万円”専用レーン

 リハビリ明けの18年、トルトゥの出した9秒99に世間は沸いたが、その陰でジェイコブスもレースに出るたびに自己ベストを次々に更新。5月初旬に10秒15だった自己ベストを7月中旬には10秒03にまで短縮させるなど著しい進歩を遂げた。

 ローマに練習拠点を移し、新しい恋人との間に1男1女ももうけて私生活も安定した。故郷に残った母親もパートナーを見つけ、可愛い2人の異父弟もできた。

 昨年春、コロナウイルス禍にイタリア政府が発布した緊急措置令によってロックダウン(都市封鎖)に追い込まれたときも、ジェイコブスは成長を止めなかった。

 郷土ガルダ湖のほとりに、まっすぐ延びる緑の4レーンがある。オリーブ畑の練習用トラックは、小さな頃からジェイコブスをよく知る地元の陸上愛好家が20万ユーロ(約2600万円)以上の私財を投じて作り上げたものだ。

 2020年の春、チームスポーツ活動は禁じられていたが、地元の厚意により最高の練習環境を得たジェイコブスは、コロッセオもドゥオーモも水の都も静まり返った国の片隅で、ひとりみっちり走り込み、ビデオでフォーム研究を進めることができた。

五輪1年延期で投入された“特別兵器”

 ロックダウンが解け、五輪の1年延期が決まると、イタリア陸上競技連盟もジェイコブス強化へ"特別兵器"を投入してきた。

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