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史上初の銅も「99は悔しい」…失意の伊藤美誠を復活させた“コーチの冗談”「そんなこと思えねーよ!(爆笑)」
text by
高樹ミナMina Takagi
photograph byJMPA
posted2021/07/31 11:06
日本の卓球女子シングルスで史上初となるメダリストとなった伊藤美誠。だが、この快挙に笑顔はなかった
「今の自分の力を全て出し切れば勝てない相手じゃない」と誰よりも期待したのは伊藤本人だった。
ところが、結果はまさかのストレート負け。孫の圧倒的な強さの前に伊藤は敗れ涙を飲んだ。
伊藤を苦しめた“予想外な作戦”
孫の勝因は巧みな戦術にあった。
序盤は武器であるパワードライブをあえて打たず、スピードと回転を殺した「死んだボール」を伊藤のバック側に集めてきた。
当然、パワーで押してくると想定していた伊藤は、予想外の戦術に対応できずバックハンドのミスを連発。ミスしているというより、ミスをさせられている状態だった。
この孫の仕掛けた罠に伊藤はハマり、どんどんペースを狂わされていった。
「僕たちが考えていたことと違うことをやってきた。美誠の力を出させないようなやり方でまんまとやられてしまった」と振り返るのは、ベンチで戦況を見守っていた松崎太佑コーチ。
伊藤も、「負けるにしても(自分の力を)全て出し切りたい。それが出来なかったのが悔しい」と悔し涙を浮かべた。加えてこうも話す。
「全てを出し切れれば、自分は中国人選手に勝てなくはない選手だと思うんです。ただ全てを出し切れないときに実力差が出てしまう。ミックスダブルスのとき水谷選手が『120%出さないと(中国には)勝てない』と言ってましたけど、基本は100%以上出さないと勝てないと思う。(その点で言えば)今日は20~30%の力しか出せなかった」
落ち込む伊藤をコーチと母が支えた
失意の一戦から約7時間後には銅メダルのかかる3位決定戦が控えていた。伊藤は消えそうになる闘志の炎を何とか燃やし続け、メダルを取りにいかなくてはならなかった。
そんなとき支えになったのは松崎コーチと伊藤のことを心身両面でサポートする母・美乃りさんの明るさだ。