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「オリンピックは異常なんだ。勝つには、自分が異常になるしかない」大野将平が語っていた柔道と金メダルへの“覚悟”《2連覇達成》 

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熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

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photograph byTakashi Shimizu

posted2021/07/27 11:07

「オリンピックは異常なんだ。勝つには、自分が異常になるしかない」大野将平が語っていた柔道と金メダルへの“覚悟”《2連覇達成》<Number Web> photograph by Takashi Shimizu

7月26日、五輪2連覇を達成した大野将平。五輪は“異常な舞台”だと語っていた。

「五輪で勝つには、自分が異常になるしかない」

 リオの4年前、大野は天理大の先輩、穴井隆将を応援するため、ロンドン・オリンピックを現地観戦した。

「ぼくは大学での稽古や全日本の合宿などで、穴井先輩を間近で見ていました。すでに世界選手権のチャンピオンになっていた先輩は、とにかく稽古熱心。24時間、柔道をやっているような人でした。稽古では一本も休まず、合宿から帰ってきた日も休まない。そんな先輩を見て、ぼくは“こういう人が金メダリストになるんだ”と思って疑いもしませんでした」

 ところが、穴井は敗れる。それも2回戦で。金メダルを獲得するはずだった先輩は表彰台にも届かず、そのことは大野に重い教訓を残した。

「オリンピックは異常なんだ。この舞台で勝つには、自分が異常になるしかない」

 それからというもの、大野は鬼気迫る様相で稽古に打ち込むようになった。リオに向けて最終調整の時期に入っても、まったく手をゆるめようとしない。

「実戦形式で行なわれたナショナルトレセンでの国内最後の合宿、ぼくは思い通りにいかなくてむしゃくしゃしていました。むしゃくしゃしながら稽古をしていたら、井上康生監督と金丸雄介コーチに止められました。でもぼくはふたりに突っかかって、泣きながら続けました。それくらい異常だったんです」

欲したのは、運に左右されない“圧倒的な実力”

 目前に迫る異常な舞台を乗り越えるには、自らの心を追い込むしかなかった。

「稽古をしないと、不安で不安で仕方がなかった。とにかくやりきったという自信がほしかった。めちゃくちゃ練習をやって、明らかにオーバーワークなんですが、当時のぼくはそうするしかなかったわけです」

 リオでの戦いが目前に迫る中、穴井からメールが届く。

『勝負には運もあるからな』

 このときの心境を、大野が強い口調で明かす。

「穴井先輩は実力があって、練習をやりきったのに負けてしまった。だから“オリンピックには運もある”と結論づけたのだと思います。でもぼくは、だからこそ実力で金メダルを獲ろうと考えました。勝負には、運の要素が間違いなくあると思う。実際に誤審も起こる。でも、ぼく以外のすべての選手が強運に恵まれても、ぼくに圧倒的な実力があれば負けない。ロンドンで先輩の敗北を目の当たりにしてから、そんな覚悟で柔道に向き合ってきましたから」

【次ページ】 実践した“一日一善”「ゴミを拾う」「スリッパをそろえる」

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