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“どん底”に落ちた阿部詩は兄・一二三に電話をかけた 柔道“金”の2人はどんな兄妹?「常に前にいてくれるので、自分は頑張れます」
posted2021/07/26 17:10
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Ryosuke Menju/JMPA
夢を現実にした2人は涙を流し、そしてこれ以上ない笑顔になった。
7月25日。柔道の男子66kg級で阿部一二三が、女子52kg級で阿部詩が優勝した。2人は兄と妹。男女のきょうだいが金メダルを獲得するのは日本史上初のこと、しかも同日でのことだ。男子66kg級優勝は2008年北京五輪以来3大会ぶり、女子52kg級の優勝は日本初。
さまざまな意味で記念すべき金メダルを手にした。
「自分自身の夢だったオリンピックチャンピオンと、きょうだい同時優勝という夢、今日1日で2つの夢をかなえられて、23年間生きてきて最高の1日です」(一二三)
「小さな頃からの2人の夢でした。ずっと思い続ければ実現するんだなと思いました」(詩)
2人の言葉にあるように、2人で追いかけてきた夢だった。
詩は相手からの"徹底マーク"を受けながら
先陣を切ったのは詩。過去、外国人選手との対戦成績59勝1敗という数字が物語るように、圧倒的な本命と目されていただけに、組み手を研究され、武器とする袖釣り込み腰も警戒されるなど対戦相手から徹底マークされているのは明らかだった。そのため、準決勝と決勝で延長戦にもつれこむなど、簡単に投げ技で仕留める展開にはならなかった。
だがその中でも成長の跡を見せた。例えば決勝、詩に黒星をつけた唯一の外国人選手、アマンディーヌ・ブシャール(フランス)の動きを慎重に見極め、相手が得意技をかけようと奥襟をつかまれても対応する。
「しっかり落ち着いて相手を見ながら冷静に戦えたと思います」
という言葉通りであった。
最後は崩袈裟固で勝利したが、寝技にも磨きをかけてきた成果がそこにあった。
「変なことをせず、いつも通りであることが大事だと思っています」とひと月ほど前に語っていたが、大本命と言われる中、しかも初の大舞台にもかかわらず、舞い上がることなく重圧を跳ね返しての栄冠だった。