「2連覇を成し遂げて、初めて語り継がれる柔道家になれる」

　勝負に臨む大野がいつも泰然自若として映るのは、技術や力だけではない、器の容量で相手に勝っているという絶対的な自信がにじみ出ているからだ。

　すでに頂点を極めた大野を突き動かすのは、柔道にはまだ自分の知らない世界があるという思いだ。

　絶対王者が静かに語り始める。

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「チャンピオンだらけの日本柔道界では、ぼくはまだ普通のチャンピオンに過ぎません。一度の金メダルに満足していたら、普通で終わって寂しい思いをするだけです。2連覇を成し遂げて、初めて73kg級で一時代を築いたと胸を張ることができる。あの異常なオリンピックを2連覇して、初めて語り継がれる柔道家になれると思う。

　ぼくはストーリーのあるチャンピオンになりたい。例えば、明らかな誤審によって銀に終わった篠原信一先輩。“弱いから負けた”というひと言は語り継がれると思います。3連覇した野村忠宏先輩なんて、常識では考えられないチャンピオンです。

　リオに勝ってから、ぼくは新たな思いを抱くようになりました。それは、だれも味わったことがないステージで戦いたいということ。ロンドンとリオを2連覇したフランスのテディ・リネール選手には、彼にしかわからない境地があるはず。ぼくも大野だけの世界観の中で戦い、2連覇を成し遂げたい。いままで圧倒的と評されることはありましたが、いまは絶対的になりたい。勝負に絶対はないですが、絶対的な強さに限りなく近づくことはできると思います」

　畳の上の探求心を忘れない大野将平が、伝説の王者への道を切り拓く。

7月26日、五輪2連覇を達成した大野将平ⒸJMPA