出産を経て復帰した荒木が、4年ぶりに代表に帰ってきたのだ。それまで共に戦ってきたメンバーの心境を考えれば、素直に喜びを表に出すことはできなかったが、また荒木と一緒にバレーボールができると考えるとそれだけで嬉しかった。

　そして、まさにエースの真骨頂とも言うべき試合が、大会6日目のイタリア戦だった。試合後、眞鍋監督に「木村の背中から炎が見えた」と言わしめた、日本がリオ五輪出場を決めた一戦。その舞台裏にはこんなエピソードがある。

「試合直前、さぁ入場という時に、シューズの紐を締めて、感覚をピタっと合わせたはずなのに、靴下がぶかぶかなことに気づいたんです。『何で？』と思ったけど、この試合でオリンピックを決めると集中していたし、直前に靴下を履き替える余裕なんてない。そうしたら、絵里香さんと目が合ったんです。『それ、私のだ』って（笑）。

　同部屋だったから間違えて絵里香さんの靴下を履いちゃった。でも結果的に、めちゃくちゃ調子がよかったんです。毎回、絵里香さんの靴下を履いて試合に出ようかと思ったぐらいだったけど、（靴下の）踵がシューズの外に出ているのは、さすがに気持ち悪いからその時だけでしたけどね（笑）」

荒木の靴下を履いてイタリア戦に臨んだ木村　©︎AFLO SPORT

　リオまでの4年は、“楽しい”よりも“苦しい”ほうが多かった。当時はそれも「キャプテンだから」と飲み込み、背負い続けてきた。でも、今はその理由がわかる。

「こうやって、話していて気づきました。私、絵里香さんがいるかいないかで、全然モチベーションが違う。絵里香さんがいなかったから、苦しかったんだ。それぐらい、絵里香さんと一緒にバレーボールをするのは楽しくて、めちゃくちゃ大きな存在でした」

遠慮しないで笑っていいんだよ（笑）

　引退後、木村が初めてバレーボールの解説に挑戦したのが今年の5月末から6月にかけてイタリアで開催されたネーションズリーグだった。「解説じゃなくて応援」と自虐気味に笑うが、自身が解説をしていない試合でも、やはり自然と荒木に目が向いた。

「いい意味で昔より力が抜けていて、プレー自体もうまくなっている気がします。人っていつまで成長するんだろう、と思いますよね。でも、たまにボールが頭に当たったり、チャンスボールなのに空振りしたり、私がそこにいたらスッ転んで笑っちゃうようなプレーをするのも、全部含めて絵里香さん。若い子たちにも『それが絵里香さんなんだから、そこは遠慮しないで笑っていいんだよ』って言いたいです（笑）」

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