Sports Graphic Number SpecialBACK NUMBER

[揺るぎなき確信]阿部一二三「絶対に優勝する。それしかない」

posted2021/07/16 07:00

 
[揺るぎなき確信]阿部一二三「絶対に優勝する。それしかない」<Number Web> photograph by Aya Watada

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

PROFILE

photograph by

Aya Watada

柔道史上最も過酷な選考を経て、念願であった五輪の畳の上に立つ。だが、全てが順風満帆だったわけではない。敗北を糧に成長を遂げた23歳の柔道家は躊躇いなく断言する。金メダルを獲る、と――。

 阿部一二三とテーブル越しに向き合ってみると、気づくことがある。眼差しが特異なのだ。造形そのものがくっきりと大きいのは確かだが、それとは別に、思いが迫ってくるような強さがある。

阿部「ずっと自分が思い描いてきたものが、ようやく形になるという感じがしています。金メダルを獲る。それしかないです」

 目と鼻の先にまでやってきた東京オリンピックの舞台、そこでの結末がすでに見えているかのように、彼は言った。

 23歳という若さゆえの恐れ知らずだろうか。天才と形容されてきたがゆえの多少の傲慢だろうか。それとも不安の裏返しか。いや、少し違う。言うなれば、彼の目には自分への疑いが見当たらなかった。

阿部「小さい頃からの夢であり、目標ですから。自分がオリンピックに出られないとか、優勝できないとか、疑ったことは……ないです。うん……、ないですね」

 阿部は自らの胸に問うかのようにそう言うと、ゆっくりと頷いた。

 そういえば彼は、おそらく人生で最も重たい天秤にかけられ、不確定な状況に置かれたあの試合でも、同じ眼をしていた――。

 2020年12月13日、日本柔道界はかつてない試合を迎えていた。男子66kg級の東京オリンピック代表決定戦、1964年から半世紀以上の歴史で初めてとなるワンマッチ選考である。

こちらは雑誌『Number』の掲載記事です。
NumberWeb有料会員になると続きをお読みいただけます。

残り: 6251文字

NumberWeb有料会員(月額330円[税込])は、この記事だけでなく
NumberWeb内のすべての有料記事をお読みいただけます。

関連記事

#阿部一二三
#海老沼聖
#丸山城志郎
#東京五輪
#オリンピック・パラリンピック

格闘技の前後の記事

ページトップ