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「リーグ最低の先発投手」を覆して菊池雄星が覚醒に至るまで  “MLBオールスターに出る”目標設定と「すべてをぶっ壊した」挑戦 

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塩畑大輔

塩畑大輔Daisuke Shiohata

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photograph byNaoya Sanuki

posted2021/07/15 17:01

「リーグ最低の先発投手」を覆して菊池雄星が覚醒に至るまで  “MLBオールスターに出る”目標設定と「すべてをぶっ壊した」挑戦<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

2019シーズン開幕前の菊池雄星。キャンプ時点で衝撃を受ける出来事があったという

「ざっくり言えば、まったく違うピッチングフォームになってしまっていたからだと思います」

 その原因は、西武時代にある。

日本でのラストシーズンに肩を……

 日本での最後のシーズンとなった2018年。西武が春季キャンプを行った宮崎・南郷は例年になく寒かった。気温が10度に達しない。なかなか全力で投げられないまま、オープン戦の時期を迎えた。

「いきなり実戦で出力を上げるしかなくなってしまって、1試合目で肩をやってしまいました」

 公式戦が始まり、菊池は開幕から8連勝とエースの働きを続けた。その間、一度登録を抹消されたこともあったが、3週間ほどで復帰。チームを10年ぶりのリーグ優勝に導いた。

「でも、ずっと痛みや違和感を抱えたままでした。リーグ優勝がかかっていたし、個人的にもメジャーに行きたいという気持ちもあって、きちんと治せなかった」

「リーグ最低の先発投手」のレッテル

 文句のない成績。そしてチームの優勝。メジャー行きにふさわしい実績を重ね、菊池は大型契約でマリナーズに移籍できた。だが、その代償は大きかった。

 左肩をかばって投げ続けた結果、理想のフォームを見失った。

 思い通りに投げられない。大きな負債を抱えたまま、メジャー1年目のシーズンは終わってしまった。

 報道はできるだけ見ないようにしていた。だが普通の生活を送っていくためにも、情報を完全に遮断するわけにはいかない。見たくないものを見てしまうことはあった。

「リーグ最低の先発投手」

 そんなレッテルを押されていた。せめて、自分のボールを投げられれば……。そんなもどかしさをあらためて感じたりもした。だが、1年間をあらためて振り返った時に、考えが変わった。思い返したのは、2月にアリゾナで見た光景だった。

「メジャーで活躍する」準備はできていたのか

 ブルペンで100マイルを投げているマイナーの投手たち。彼らは間違いなく「メジャーで活躍する」準備ができていた。そんなことを、ふと思った。

 それに比べて、自分はどうなのか。

 菊池は高校時代から、人生の目標として「メジャー行き」を掲げていた。そして西武で2016年から3年連続2ケタ勝利を挙げ、メジャー行きを現実的なものにした。

「でも、それで満足していたところがあったんじゃないかなと。つまり、メジャーに行くこと自体が目標になってしまっていたということです」

「メジャーに行く」ための準備は怠らなかった。だが「メジャーで活躍する」ための準備をしてきていただろうか。

「そういう意識での準備ができていなかった。少なくとも、西武での最後の数年間は目標をアップデートしなければいけなかった。だからきっと、左肩を壊してフォームを見失わなかったとしても、メジャー1年目は活躍できていなかったんじゃないかと」

【次ページ】 オールスターに出る、という目標設定

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