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「リーグ最低の先発投手」を覆して菊池雄星が覚醒に至るまで “MLBオールスターに出る”目標設定と「すべてをぶっ壊した」挑戦
text by
塩畑大輔Daisuke Shiohata
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/07/15 17:01
2019シーズン開幕前の菊池雄星。キャンプ時点で衝撃を受ける出来事があったという
「コントロールは無茶苦茶なんですよね。でも」
「衝撃でした。自分なら、プルペンでは96マイルも投げられませんから」
菊池はそう振り返る。最速158キロ、つまり98~99マイルの速球が評価され、メジャー契約を果たした。だがその球速はあくまで、試合中のアドレナリンも手伝ってのことだ。
当時はそれが菊池の「限界」だった。マイナー契約の投手たちは、それを目の前で軽々と破って見せた。
「確かにコントロールは無茶苦茶なんですよね。でも、ひとつコツをつかんで、制球が定まったらいつでもメジャーで活躍できるポテンシャルを、みんな持っている」
そんな多くの選手たちが、26人の公式戦出場枠、40人の支配下選手枠に向かって殺到している。そんな図式が、脳裏に浮かんだ。難しい舞台に来たと、わかっていたつもりだった。だが、実際の難しさは想像のはるか上をいっている。菊池はそれを、期せずして思い知らされた。
数字以上に本人が悩んでいたこと
強敵が無数にいる。それはよくわかった。一方で、よくわからないこともあった。
2019年3月21日。
東京ドームで行われたアスレチックス戦で、メジャー初先発を果たした。イチローが現役引退を表明したことで知られる試合である。
4月20日、6度目の先発となったエンゼルス戦で初勝利。8月にはブルージェイズ戦で、96球での完封勝利も挙げた。だが一方で、まったく内容が安定しなかった。
何せ打たれる。
年間の被本塁打36本は日本人メジャーリーガーの歴代最多。被打率も2割9分5厘にまで達してしまった。あらゆる数字が、リーグの先発投手の中でワースト近くになってしまった。彼のボールは、メジャーでは通用しない。そんな見方を表明するメディアも出てきた。
だが本人は、まったく違うところで悩んでいた。
「自分のボールがメジャーで通用するのかどうか、当時はまったくわからなかったんです」
なぜ思うようなボールが投げられなくなったのか
思うようなボールが投げられない。打たれても。抑えても。菊池の頭の中は、そのことだけでいっぱいだった。
「もどかしかったです。メジャーのレベルの高さは感じていましたけど、でも自分側に基準を設けられないので、きちんとはかれてはいなかった。だから、自分が通用するのかどうかもわからない」
なぜ、そうなってしまったのか。