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アズーリは53年分の“EUROの呪縛”を解き放てるか…御大ゾフが「チームがひとつになるだけでは不十分」と語ったワケ
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/07/11 11:02
PK戦の末にスペインを下し、ファイナルへ。イングランドとの決勝で、53年ぶりの欧州王者を目指す
史上唯一のEURO決勝“第2戦”を制す
再試合という僥倖を得たイタリア代表監督フェッルッチョ・バルカレッジは賭けに出た。第1戦のスタメンから大量5人を入れ替えたのだ。ターンオーバーが定着している今なら当たり前だが、レギュラー固定起用ありきだった当時では考えられない奇策だった。
「監督には第六感があった。まず、(DFロベルト・)ロサートを最終ラインの前に置いて防波堤にした。次に(FWアレッサンドロ・)マッツォーラを中盤に動かし(FWピエトロ・)アナスターシと組ませた」(デシスティ)
バルカレッジの采配は的中した。
先発起用したFWジジ・リーバが開始12分で先制弾を決めた。リーバは3度のセリエA得点王やカリアリでのスクデットなど数々のタイトルを獲ったが、この1点はイタリア中を熱狂の渦に巻き込んだ珠玉のゴールだ。
31分にはアナスターシがアクロバティックな追加点を決める。キックオフから半時間、勝敗は決した。
史上唯一のEURO決勝“第2戦”を制したのはイタリアだった。
試合終了を告げる笛が吹かれたとき、アズーリの男たちはユーゴスラビアの選手以上に汗だらけだった。優勝トロフィーを思う存分に愛でたのちグラウンドを後にした彼らは、ロッカールームに備え付けてあった大型バスタブへ次々に飛び込んだ。
22人いた優勝メンバーのうち9人はすでに鬼籍に
「アズーリ色のユニフォームを何より愛せよ。チーム一丸となれ。そうすれば、今大会にも勝機はある」
EURO2020開幕前にイタリア国内メディアの取材に応じたドメンギーニやデシスティら68年大会優勝メンバーは、代表の後輩たちにエールを贈った。
今大会開幕16日前の5月26日、かつてユーゴのエースFWジャイッチを抑えきったDFタルチシオ・ブルニチが天に召された。2度目の決勝戦でゴールを奪ったアナスターシも昨年1月に死去している。2006年にはインテル会長も務めた主将ファッケッティも逝った。
22人いた優勝メンバーのうち9人は、すでに鬼籍に入っている。だが、まだ存命ならばその多くがチームの結束を強調したことだろう。
ところが、1人だけ「代表」に少し違う見立てをする先達がいる。
代表監督としてEURO2000に臨み、フランスとの決勝戦で当時の規定だったゴールデン・ゴールによって悲劇的敗戦を喫した御大ゾフだ。