セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER

アズーリは53年分の“EUROの呪縛”を解き放てるか…御大ゾフが「チームがひとつになるだけでは不十分」と語ったワケ 

text by

弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2021/07/11 11:02

アズーリは53年分の“EUROの呪縛”を解き放てるか…御大ゾフが「チームがひとつになるだけでは不十分」と語ったワケ<Number Web> photograph by Getty Images

PK戦の末にスペインを下し、ファイナルへ。イングランドとの決勝で、53年ぶりの欧州王者を目指す

「目をつぶって打った」起死回生のFK

 1968年の国境は、現在とは異なる。

 世界中で社会運動が高まりを見せ、労働問題や学生運動、文化人啓蒙のデモが四六時中あちこちで起こっていた。あらゆる分野に生きる人々のうねりの熱があった。

 同年秋に開催されたメキシコ五輪では、陸上男子200メートル金メダリストであるアメリカのトミー・スミスと銅メダルのジョン・カーロスが、黒人差別への抗議行動として表彰台で拳をあげた。

 欧州選手権直前の5月に、9割を超える投票率で上下院総選挙が行われたイタリアも、激動の時代を迎えていた。

 アズーリは、ファシズム政権下で開催された34年イタリアW杯と38年フランスW杯を連覇したが、それ以降国際タイトルから見離された。58年スウェーデンW杯ではよもやの予選敗退を喫し、66年W杯イングランド大会では北朝鮮に0-1で金星を許すなど、精彩を欠く時期が長く続いていた。

 一方、60年代の経済復興のなかでミランとインテルが3度UEFAチャンピオンズカップを制し、欧州サッカー界でイタリア勢躍進が顕著だったのも確かだ。セリエAでプレーする代表選手たちは、来る晴れ舞台のために力を蓄えてきたはずだった。

 ただし、6月8日のローマ決戦前、下馬評では圧倒的にユーゴスラビアが優位だった。

「彼らはよく組織されていて、経験と才能を持つ選手が揃っていた。ユーゴの方が、いいプレーをしていた」

 中盤のダイナモだったジャンカルロ・デシスティの認める通り、実際に試合が始まると“欧州のブラジル”がイタリアを圧倒した。

 39分にエースFWドラガン・ジャイッチが先制点を決め、アズーリは防戦一方となる。試合終了まで10分、80分に追いつけたのは、無我夢中のドメンギーニが「目をつぶって打った」起死回生のFKゴールのおかげだった。

「その晩は40度の熱が出たよ」

 試合は1-1のまま延長戦に突入し、スコアは動かず120分が過ぎた。

 流石に欧州王者をコイントスでは決められない。規定により、決着は2日後の再試合に持ち越された

「だが俺たちは息も絶え絶えだった。こっちは2試合連続で120分間フルタイムだ。最初の決勝が終わったとき、俺は(左右に分かれた)ロッカールームがどちらかもわからない有様だった。その晩は40度の熱が出たよ」(ドメンギーニ)

【次ページ】 史上唯一のEURO決勝“第2戦”を制す

BACK 1 2 3 4 NEXT
ロベルト・マンチーニ
ディノ・ゾフ
フェデリコ・キエーザ
ジョルジーニョ

海外サッカーの前後の記事

ページトップ