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あのドラ1は今…「当時の自分をボコボコに」“二刀流”候補だった元ロッテ柳田将利、わずか3年のプロ人生で最初についた嘘とは 

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永田遼太郎

永田遼太郎Ryotaro Nagata

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posted2021/07/09 11:02

あのドラ1は今…「当時の自分をボコボコに」“二刀流”候補だった元ロッテ柳田将利、わずか3年のプロ人生で最初についた嘘とは<Number Web> photograph by KYODO

2005年夏の甲子園でホームランを放ち、ガッツポーズを見せる青森山田の柳田将利。ドラフト1位でロッテに入団するも、わずか3年でプロ野球界を去った

 一人作業が多い、いわば“個人経営”に近いドライバーが多く在籍する運送業。せっかく同じ会社にいるのだからみんなの気持ちを束にすることはできないか。それは夢中で取り組んできた野球が教えてくれたものだった。

 その思いを形にしたのが、今年1月から配信を開始したYouTubeチャンネル『やなSUN TV』だという。この動画には柳田さんのパートナーを務める森田雅重さんを始め、和弘運輸で働くドライバーたちが出演する。動画撮影を通して彼らと向き合うことで、他人に言えない悩みや社内で起こり得る問題を未然に防ごうと考えている。

 この行動に駆り立ててくれたきっかけはそのパートナーである森田さんの背景にある。森田さんは学生時代にいじめを経験。和弘運輸入社後も社に溶け込めず、人間関係で悩んでいたという。

 ある日、森田さんが辞表を持って柳田さんのもとを訪ねてきた。その席で、柳田さんは森田さんに思いをぶつけた。

「他の社員は相手の方を見て挨拶しているのに、森田は逃げるように『お疲れ様です』ってどこかへ行っちゃう。人間関係が上手くいかないのは、自分で(原因を)撒いていることもある。そこから始めてみないか?」

 柳田さんが森田さんにそう話せたのは、自身の苦い過去もあったからだ。

「プロ野球をクビになって、人がだんだん離れていきました。非通知で電話がかかって来て『クビ、おめでとう』って言われたこともある。でも、自分はどこかで『プロ野球選手や』と天狗になっていたし、そうした振る舞いをしていたからそんなことを言われるじゃないかなと思えたんです。誰かを恨むのは簡単なんですけど、自分を叱ってやれないと、成長できないんじゃないかって」

プロとしてプライドを持ってほしい

 運送会社には、さまざまな過去を背負った人たちがやって来る。彼らは一様に「運送業は最後の就職先」という考えでやって来るというが、柳田さんはそうした考えが嫌いだという。

「ドライバーが勝手に自分たちのことをそう見ているだけ。もっと自分の仕事に誇りを持ってもらいたいんです。ドライバーって誰かの命をすぐ奪ってしまうものを動かしているわけだから、ちょっとしたミスで人を死なせてしまう職業でもあるわけです。“緑ナンバー”と呼ばれるものを付けて、プロのドライバーとして仕事している。もっと高い意識を持って仕事をしてくれたら、事故はもっと減っていくんじゃないのかなって」

 YouTubeの中で、若いドライバーたちと熱く語り合う姿は、かつてロッテ時代に失敗を重ねていた若き日の柳田さんとは全く違う。

「過去にいじめらていた人が勇気を出して、一歩前に出て、『こんなことまで出来るようになったんやで』と言える物語(ストーリー)をYouTubeで発信したいと思ったんです。だから僕がメインになるような動画は『やなSUN TV』では流さない。別の野球関係の動画に呼んでもらった時は、僕1人で行く」

 表舞台に再び戻るつもりもない。自分を救ってくれた会社、そして仲間たちのために、より良い環境を作り出せないか。そんな柳田さんの気持ちが窺える。

【次ページ】 「ずっとしんどかったです」

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