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フランス相手に世紀の大金星を挙げたスイスの英雄 小柄な守護神・ゾマーが“欧州屈指のGK”である理由 

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中野吉之伴

中野吉之伴Kichinosuke Nakano

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posted2021/07/02 17:02

フランス相手に世紀の大金星を挙げたスイスの英雄 小柄な守護神・ゾマーが“欧州屈指のGK”である理由<Number Web> photograph by Getty Images

身長183cmとGKの中では小柄なゾマーの活躍でスイス代表は快進撃を続けている

 両手を広げて喜び、スイスファンが待つ観客席に向けて駆け出した。英雄の誕生だ。

 試合後のテレビインタビューでは本当に嬉しそうだった。

「僕らのことを信じていた人なんていなかったんじゃないだろうか。でも僕らはお互いに『どんなことがあっても最後まで戦い続ける!』って誓いあっていたんだ。まだちょっと頭が追いつけていない。信じられない夜になった。僕らはピッチ上にすべてを出し切った。世界王者相手に2点のビハインドを追いつくなんて。チームをものすごく誇りに思う」

 ゾマーはこの日、スイス代表通算65試合出場を果たし、史上最多出場GKとなった。

「代表史上最多出場記録を果たした試合で、こんな形で喜べるなんて」

ヨーロッパで最も過小評価されているGKの1人

 身長183cmのゾマーは、欧州サッカー界では小柄なGKの1人だ。GKの場合、高身長が評価の指針となることが少なくない。ドイツサッカー協会GKコーチのイェルク・ダニエルは「最低でも185cm」と語っていた。

 実際、各国とも高身長GKが揃う。ベルギー代表ティボウ・クルトワは199cm、イタリア代表ジャンルイジ・ドンナルンマは196cm、ドイツ代表マヌエル・ノイアーは193cmだ。

 確かに、高身長は武器となる。しかし、それだけが優れたGKに必要な要素ではない。

「体の大きさに関しては、特に育成年代であまりに大きなテーマとされすぎていると思う。そのせいで、若くて才能ある多くのGKが成長するチャンスをもらえていない」

 かつて、ゾマーはそう訴えていた。体格だけではなく、パフォーマンス、成長曲線、他の長所にも目を向けなければならないと指摘する。

 同じことは、フィールドプレーヤーにも当てはまる。フィジカルパフォーマンスは現代サッカーに必要不可欠な要素だ。だが、フィジカル数値が高いから優れた選手になれるという方程式があるわけではない。

 それぞれの選手には、それぞれの身体的な特徴がある。自身が持つ能力と特徴を最大限発揮するにはどうしたらいいか。そこを考え、体をいつでも的確に動かすことができるかどうか。それが重要ではないだろうか。

 元デンマーク代表のレジェンドGKピーター・シュマイケルは、「ゾマーはヨーロッパで最も過小評価されているGKの1人だ。大きい選手ではない。しかし、彼がどんなプレーを見せているか。あれほどのプレーを見せられる選手は多くない」と絶賛していた。

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