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「マネージャーにもなりたくなかった」青学大・伝説の主務が明かす、“走れなかった箱根駅伝”で初優勝するまで
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byYuki Suenaga
posted2021/07/06 11:00
青山学院大学陸上部の元主務だった高木聖也さん。現在は大学の後輩でプロランナーの神野大地をサポートしている
その時点で3月のレースで目標タイムを破るのは不可能になった。病院での検査を終え、松葉杖で原監督の元にいくと開口一番、こう言われた。
「マネージャーとして頑張りなさい」
高木さんは、素直に「はい」と答えた。もう箱根駅伝を走ることはできない。それでも、不思議と涙することも感情が大きく揺れることもなかった。
「選手としてうまくいかないことが多くて、もう走らないで済むと思うとホッとした気持ちがありました。それでも、箱根を走りたい気持ちもまだ強くありました。なんとか折り合いを付けて覚悟を決めたんですが……。何より家族や恩師の期待に応えられないのがつらかったですね」
最も優秀な学生が任される「主務」に
複雑な気持ちを抱えつつも、3年生から“マネージャー”として青学大陸上部を支えていくことになった。
「マネージャーをするようになって、自然と選手との距離感は少しずつ変わっていきましたね。指導とまではいかないけど、意見することも増えた。だから仲の良かった選手とちょっと距離が出来ちゃったこともありました(笑)」
大学の陸上部では、マネージャーもしくは学生コーチで最も優秀な学生が4年生で「主務」を任される。仕事は、練習の準備や試合のエントリー、学校施設の使用許可書の提出などのマネージャー業務に加えて、マネージャー陣の統括、そして主務の最大の仕事でもある「監督と選手との調整役」がある。
高木さんは、同学年から選ばれ、4年生で青学大陸上部の主務を任された。選手主体でのチーム作りを意識し、原監督にもいろんな提言をしていたという。なかでも、今も青学大陸上部の伝統として受け継がれているのが「青トレ」だ。フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一監修の体幹とケアトレーニングだが、この時に高木さんたちが積極的に取り入れ、神野らがこなして結果を出すことで定着していった。
監督に直談判「優勝を狙うと言ってください」
高木さんが主務の役割をこなすなかで、一番こだわったのが年間の目標だった。
「僕らの1つ下の代は、スカウティングが良くて黄金世代と言われていたんです。原監督も専門誌のインタビューで『彼らが4年になった時に、優勝を狙います』みたいなことを言っていて。でも、それって僕らの代が抜けているんですよ。それがめちゃくちゃ悔しかった。僕らの代にも強い選手がいたし、『優勝を狙うのは来年じゃなくてもよくない?』と。
実は監督には、ガチガチに優勝を狙うよりも3位ぐらいを狙う気持ちの余裕をもって運があれば優勝もという考えがあったみたいなんですけど、それでも僕らは3位以上という考えが嫌だった。それで僕と主将の藤川で『僕ら4年生の目標は箱根駅伝優勝でいきたい。3位を狙うのではなく、優勝を狙うと言ってください』と直談判したんです」