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“レジェンド”ロマチェンコはなぜ中谷正義を選んだのか? 「なかなか倒れなかったことでも驚きはしなかった」

posted2021/06/30 17:02

 
“レジェンド”ロマチェンコはなぜ中谷正義を選んだのか? 「なかなか倒れなかったことでも驚きはしなかった」<Number Web> photograph by Getty Images

元OPBF東洋太平洋ライト級王者の中谷正義(帝拳)は元3階級制覇王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に9回TKO負けを喫した

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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 日本ボクシング史に刻まれる歴史的勝利とはならなかった。

 6月26日、ラスベガスのバージンホテルで行われたライト級12回戦で、元OPBF東洋太平洋ライト級王者の中谷正義(帝拳)は元3階級制覇王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に9回TKO負け。“ハイテク”と称されるロマチェンコの的確なパンチを浴び続け、5回に右フックでダウンを喫し、9回に連打を浴び続けてストップされた。序盤から相手の左ストレートで顔面を何度も跳ね上げられ、反撃の糸口を掴めないままの完敗だった。

「中谷はすごい責任を感じてやっていた。初めて『この試合は勝たなければいけない』という気持ちになっていたのではないか」

 試合後、帝拳ジムの本田明彦会長はそう述べていたが、実際にこの日の中谷は少々硬さが感じられ、パンチは単発傾向が目立ったのは事実ではある。普段は落ち着きを感じさせる32歳のベテランでも本来の精神状態でなかったとすれば、それだけの舞台だったということか。

有力紙も駆けつける「正真正銘のビッグステージ」

 ロマチェンコはアマ時代に五輪2連覇、通算396勝1敗というとてつもない実績を残し、プロ入り後もデビュー3戦目で世界王座に就いたスーパーボクサー。プロでの16戦中15戦はすべて世界戦という尋常ではないキャリアを歩み、米リングでもスター街道を邁進してきた。そんな相手との対決は、世界戦ではなくとも、日本人選手としては歴史的な挑戦と言って良かったはずだ。

 会場となったバージンホテルのアリーナは大規模とはいえないが、当日は2072人の観衆が集まってチケットは完売。ESPN+で全米生配信された興行にはビッグイベント感が漂い、ESPN.com、The Athleticといったメジャー媒体の記者も取材に訪れた。このような正真正銘のビッグステージでは、通常通りの力を発揮するのが容易ではなくなるのは当然ではあったのだろう。

 ただ、中谷が普段のようにもっと手を出していたら内容、結果が変わっていたと言いたいわけではない。スピード、技術、フットワークで大きく上回るロマチェンコは、やはり1、2段上の実力者。得意のスムーズなステップが蘇り、この日はクリンチ際の連打でも狡猾さを見せた。「3、4ラウンド頃には試合をコントロールできていると感じた」というサウスポーのテクニシャンは、回を追うごとにペースを上げていった。

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