ボクシングPRESSBACK NUMBER
“レジェンド”ロマチェンコはなぜ中谷正義を選んだのか? 「なかなか倒れなかったことでも驚きはしなかった」
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byGetty Images
posted2021/06/30 17:02
元OPBF東洋太平洋ライト級王者の中谷正義(帝拳)は元3階級制覇王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に9回TKO負けを喫した
これほどの名王者が、新鋭テオフィモ・ロペス(アメリカ)にまさかの判定負けを喫したのは昨年10月のこと。その再起戦として、2019年7月にロペスを苦戦させた実績がある中谷を相手に選び、心に期するものがあったのだろう。
ロマチェンコは「予想以上に速かった」
ロペス戦のように消極的になることはなく、かといって、連勝中に散見したように打ち気に逸りすぎて不用意なパンチをもらうこともない。後がない状況で迎えた今戦でのロマチェンコは、非常にバランスの良い攻防を展開した印象があった。メンタルが充実していたがゆえに、初回にバッティングで頭から出血しても、中谷のボディ打ちによる抵抗を受けても、乱れずにやり過ごすことができたに違いない。
「自分が思ったよりも左が多かった。横の動きが予想以上に速かった」
試合後に病院で検査を受けた中谷もジムを通じてそんなコメントを発表し、素直に完敗を認めた。本田会長も前述通り愛弟子が本調子ではなかったと述べた上で、「中谷にパンチを出させないうまさがあるんでしょう。やっぱり上手い」とロマチェンコを高く評価していた。
レジェンドはやはりレジェンド。ワンサイドではあっても、場内を楽しませるハードファイトの末に、実力上位のものが素晴らしいパフォーマンスで勝ち残った。パンデミックからの復興がなったラスベガスを沸かせた一戦は、ロマチェンコの完全復活を印象付けたという意味で、象徴的なカムバックの舞台となった。
「自分の中で一番のビッグマッチなので大変うれしい気持ちはあります。でも、戦うだけじゃなく、勝たないと意味がない。試合の日は絶対に勝つつもりで戦います」
最終会見でのそんな言葉を思い返すまでもなく、世界タイトル戦に直結する一戦で結果を出せなかった中谷は痛恨の思いに違いない。怪物的な強さを持つ猛者が揃うライト級。頂上の高さを痛感させられる結果でもあった。今後、再び這い上がるためのモチベーションを得るのは簡単ではないのかもしれない。
しかし――。ここでかつては「現役最強」とまで称された選手に完敗を喫したことで、中谷が積み上げたもののすべてが消え失せるわけではない。
世界の舞台でも戦える底力を証明してきた
「過去2戦で中谷が良い選手だということはわかっている。映像や写真を見て選んだわけではなく、トップ選手との2試合で実際に力を証明してきた選手なんだ」
89歳の大ベテランプロモーター、ボブ・アラム・プロモーターがそう述べた通り、中谷は今戦も含めた3戦で世界の舞台でも戦える底力を十分に証明してきた。