マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「大谷のスライダーは真横に“消えた”」9年前、花巻東高校で18歳大谷翔平のボールを受けた私の衝撃体験
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2021/06/30 11:04
ランニングする花巻東高3年、大谷翔平（18歳）。この2012年秋、筆者は大谷のボールを自ら受けた
花巻東高グラウンド・三塁側ブルペン。そのマウンドにスッと立った大谷翔平投手のスラリとした長身のユニフォーム姿を、今でもはっきりと思い出せる。
カッコいいなぁ……と、まず見とれた。そして、あのデカイ体がダイナミックに躍動して全力で投げ下ろして来るんだから、すんげぇ球なんだろうなぁ……と、ひどくビビっていた。
こういう「流しのブルペンキャッチャーの大ピンチ」はそれまでも何度かあったが、そういう時の心持ちはいつも、
ADVERTISEMENT
「さあ、殺せ！」
開き直りしかない。
佐々木監督が予告してくれた通り、とんでもないボールだった。おそらくは、しなやかに躍動する流麗なフォームだったはず。しかし、始まったら、そんなもの、見てるヒマはない。
ボールが出てくるはずの空間のあたりに、ジッと目線を据えるだけだ。フォームなんか見ていたら、ボールの出どこが見えないんだ。18.44m先で、ビュンと長い腕が振られる！……ような気がするだけだ。
「154くらい出てるんでないの、大丈夫？」
このラインだ！と思った位置に、ミットを合わせる。
書けば長いが、すべては一瞬。見えた！と思った瞬間、大谷翔平の剛速球は、もうミットに突き刺さっているんだ。続く、続く。お構いなしの剛速球を、もうガンガン。
「さあ来い！ もっと来い！」
やせ我慢のカラ元気で、こっちが一生懸命あおるものだから、向こうも火がついてしまったようだ。
見た感じ、やさしそうな顔してるから、ちょっとは手加減してくるかな……とも思ったが、この長身の剛腕、温顔の下にとんでもない「鬼」を隠し持っている。
「154（キロ）ぐらい、出てるんでないの……大丈夫？」
後ろで見ていたベテランのコーチの方が心配してくれる。その頃には、こっちだって、「狂気の塊」と化している。ミットの中の左手はもう感覚すら失っているのに「ぜんぜん平気ですよ！」と、もう誰も止められない。
「でも、ほんとにすごいのは変化球」
まばたき1つしたら、もうミットが間に合わない。そこまで速い。理屈でいえば、ボールの回転軸が地面に平行……とでもいうのか。フォーシームのきれいなバックスピン。低めは、上からミットをかぶせるようにしないと、猛烈な「ホップ成分」にミットをめくられてしまう。
ストレートばかり10球以上続く。これが、大谷翔平のストレートなのか……ちょっと慣れてきて、感慨にふける余裕がちょっと。これだけ速かったら、ひょっとして1つぐらいは「160」が混じっていたのかも……。
スライダー、行きます！ マウンド上の大谷が、右手をちょっとひねるようにする。
