まっすぐに来た。あれっ、曲がんないのかな……と思った瞬間、真横に吹っ飛ぶようにして、視界から消えた。

　スライダーの1球目。ミットにかすりもしなかった。

　大谷が日本ハムに入った頃、当時の鶴岡慎也捕手（現・日本ハム兼任コーチ）のこんなコメントを新聞紙上に見つけた。

「大谷は速い、速いとそればかり話題になるが、ほんとにすごいのは変化球。特に、スライダーは自分の反射神経のMAXでやっと捕れるぐらいだ」

　ストレートもとんでもないストレートだったが、スライダー、フォークは人間の投げる球じゃなかった。

　今、大谷が投げている映像を見ていると、次は「変化球」だとすぐわかる。ミットを構えるキャッチャーの動きが急にソワソワするからだ。 いったん中腰で構えてから、何度も足の位置を確かめるように小刻みに動く。

　気持ちはすごくよくわかる。フォークなんて、あの時だって、剛速球と同じ勢いで来てベースの手前で急にタテに折れて、構えた両足の間を抜けて、後ろのネットに直撃したのだから。メジャーのキャッチャーだって、あのスライダーやフォークは怖いに違いない。

“打者”大谷翔平の忘れられない「2つの場面」

　投手・大谷翔平のとんでもないすごさは見ていたし、聞いていたから、やっぱりな……と思ったが、衝撃的に驚かされたのは、打者・大谷翔平のほうかもしれない。

　忘れられない場面が2つある。

　試合形式でのバッティング練習。大谷翔平の打球が一、二塁間を抜いた。彼にとっては「打ち損じ」だったはずだ。しかし、全力疾走で一塁を大きく回り込んだ大谷翔平が、そのまま一目散に二塁ベースに向かったから驚いた。

「ライトの選手が、打球を捕る前にチラッと一塁ベースを見たんです。これは僕が回り込んだところを刺しにくるな……と思ったんで、逆にセカンドを獲りにいきました」

　あとで、サラッと解説してくれた。

　その通り、打者走者・大谷翔平を刺しにいったライトの選手は、一塁に送球したあと、呆然と立ち尽くしていた。

　豪快なピッチングと、やはり並外れた長打力……それはさんざん伝えられていたが、大谷翔平の「走」については、当時まだほとんど触れられていなかった。

　どこからそんなインスピレーションが降りてくるのか知らないが、その神がかった野球カンと、一塁を回って二塁に向かっていくストライドの大きな走りのスピードと滑らかなスライディング。

　やはり、「人間」には見えなかった。

　さらに、あれは3年春の東北大会だったか。試合が始まって最初の打席だ。

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