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桐生祥秀「一区切りかな」 山縣亮太は“9.95”のダメージが… 日本選手権「男子100m」はなぜ明暗が分かれたか
text by
折山淑美Toshimi Oriyama
photograph byAFLO
posted2021/06/28 17:01
日本選手権男子100mで優勝した多田修平(左)は山縣亮太とともに東京五輪出場を決めた
「数年間はいろいろあったが、一区切りかな」
レースではその想定通りに、スタートのリアクションタイムも0秒152と遅れて前半は取り残される展開だったが、3位争いの中には食い込む意地を見せた。スタートから先行した山縣と小池には0秒01遅れる結果だったが、ラストは必死のフィニッシュ姿勢でサニブラウンを0秒01抑えた。5位という結果に、「前半は絶対にリードされるという想定でレースプランを考えていた、それがうまくいかなかったのは結果に表れている。ここまでの数年間はいろいろあったが、一区切りかなと考えている」と心の内を語った。
また6位に止まったサニブラウンも「やれることをやった結果としての6位。自分の準備不足かなと思う」と、素直に敗戦を認めた。
9秒95が体に与えたダメージは大きかった
一方、優勝候補筆頭とみられていた山縣も、予想以上の疲労で苦しい戦いを強いられていた。これまで経験したことのなかった9秒95のスピードが体に与えたダメージは大きかった。さらに長年追い求めていた9秒台を出したことで、心の中には安堵感も生まれただろう。2月からレースに出ていた分、調子自体は下り坂になっている中で日本選手権を迎えていたのだ。
「スタートの手ごたえも直前の練習で感じていたので、多田選手に勝てると思っていた。でもそれ以上に多田選手が速くて少し焦った」という山縣は、中盤まではその差を僅差で維持したが、逆転すべき終盤に、うまく走りを切り替えることが出来ずに逃げ切られた。それでも追い込んできた小池を1000分の1秒差で押さえ切り、3位になって五輪代表内定を勝ち取ったのは、悪い中でもまとめ切る能力の高さだった。
また小池も今季のこれまでの走りを見る限りは、走りに狂いが出ていて優勝争いは厳しいだろうと思われていた。だが大舞台にしっかり調子を合わせ、現時点で持っているものを確実に出し切る能力の高さは、高く評価できるもの。彼なりに現状の力を出し切る走りだった。