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史上初のEURO決勝トーナメント進出に沸くオーストリア 人口890万人の小国が築いた“生き残るための仕組み”とは?
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/06/26 17:00
史上初の決勝トーナメント進出を果たしたオーストリア。躍進の裏には選手を成長させる確かな仕組みがあった
選手ありきではなく、クラブありきの経営だ。
オーストリアサッカー協会は、こんなふうにスローガンを掲げている。
「それぞれの選手に合った教育、それぞれの選手に合った成長環境を整えなければならない。一人ひとりがそれぞれのプロジェクトだ」
そのためにリーグの仕組み自体を若手がステップアップしやすいようにした。どれだけ才能がある若手でも、所属クラブに経験豊富な選手がいたら、監督はそう簡単に抜擢することはできない。だから、リーグのルールそのものを変えたのだ。
現在、オーストリアでは各クラブのセカンドチームが2部まで昇格できる。U-18チームのひとつ上になれば、オーストリア2部でプレーができる環境はとても魅力的だ。
例えば、レッドブル・ザルツブルクはUEFAのU-19ユースリーグで優勝を遂げているが、その大きな要因として、18、19歳の選手がセカンドチームで大人のサッカーを経験して、そこで揉まれることで大きく成長していることが挙げられる。
またオーストリアでは、完全移籍、レンタル移籍以外に「提携契約」というものがある。レンタル移籍の場合、契約期間中はレンタル先のクラブでしか出場できないのは皆さんもご存じだろう。しかし、「提携契約」を結べば、提携先のクラブに加え、提携元のクラブの試合にも出場することができる。
「今週は1部で試合に出る。翌週は負傷していた主力が戻ってきたので、提携先の2部のクラブでプレーをする」という選択が可能になるわけだ。
対象は23歳まで。若い選手が毎週のように大人のチームで試合に出られる環境を整えるためのアイディアだ。
ヨーロッパで最も平均年齢が低いリーグ
そうしたプロジェクト導入の成果もあり、いまオーストリアの2部はヨーロッパで最も平均年齢が低いリーグの1つとして注目を集めている。日本人選手だと中村敬斗(ジュニアーズ)や財前淳(バッカー・インスブルック)がプレーしているが、毎年、様々な国から有望な若手が集まってきている。
オーストリア2部でデビューし、1部へ昇格して、そこからドイツやイングランドへステップアップした例は少なくない。すでにそうしたルートが出来上がっているのだ。
例えば今夏、バイエルンが4250万ユーロ(約56億円)を費やしてRBライプツィヒから獲得したダヨ・ウパメカノは、数年前までオーストリア2部でプレーしていた選手だ。
そんな彼らが伸び伸びプレーできる理由の1つに、他国ではよくある「何万人の観客の前で、1つのミスでブーイングされて、ものすごいプレッシャーの中でプレーしなければならない」という外的ストレスを感じずにプレーに集中できることが挙げられる。
U-18、U-19までと大人のサッカーは、何もかもが違う。この壁を乗り越えられず挫折した元天才少年は数えきれない。だからこそ、大人のサッカーへの入口が重要なのだ。