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史上初のEURO決勝トーナメント進出に沸くオーストリア 人口890万人の小国が築いた“生き残るための仕組み”とは?
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/06/26 17:00
史上初の決勝トーナメント進出を果たしたオーストリア。躍進の裏には選手を成長させる確かな仕組みがあった
「ドイツより5年遅れている」と揶揄されることも
オーストリアの国土は北海道と同じくらいで、人口は大阪府とほぼ同じという小さな国だ。隣国のドイツとよく比較されては、「ドイツより5年遅れている」と揶揄されることだって少なくない。1部リーグの平均観客数も、各クラブの予算規模だって、とてもではないけどドイツとは比較にならない。
でも、そんなオーストリアから近年、好選手が次々と輩出されているのはなぜだろう?
レアル・マドリーへの移籍が決まったアラバをはじめ、RBライプツィヒのザビツァー、ホッフェンハイムのバウムガルトナー、フランクフルトのマルティン・ヒンターエッガー、ボルシアMGのシュテファン・ライナー、ヴォルフスブルクのザベル・シュラーガーなど、多くの選手がドイツの主要クラブで主軸ポジションを務めている。
昨シーズンのブンデスリーガで「どの国からステップアップしてきた選手が多いか」を調べたところ、オーストリアからきた選手が31人で一番多かった。
スポーツでもビジネスでも、自分たちの立ち位置を把握するところが出発点と言える。世界的な観点から見ると、自分の国はどの位置にいるのか。経済力を含め、サッカーでは4大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア)が中心なのは揺るぎない事実。真っ向勝負では勝ち目も将来もない。
ならば、自分たちが生き残っていくための道はどこにあるのか。オーストリアではアマチュアクラブ、育成アカデミーに限らず、プロクラブでも「自分たちはステップアップのリーグ。そのための環境を整えよう」ということを共通認識として持っている。そこが強い。良くも悪くもメディアの注目が集まることが少ない。だからこそ、若手育成にはもってこいの土壌でもあるのだ。
若手がステップアップしやすいリーグの仕組み
ドイツ語圏の特徴として健全経営が大事にされているので、無謀な投資でクラブ運営が行き詰まることも少ない。ドイツより厳しいとされるクラブライセンス制度があることも関係して、無理に人件費を上げたりはしない。「主力が予算以上の金額を求めてきた際は、どうぞ移籍してください」というスタンスでやっている。