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「我が巨人軍は永久に不滅です!」「ナガシマァ~」涙、涙、涙…日本人にとって38歳長嶋茂雄の引退はどんな衝撃だったか?
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byKYODO
posted2021/06/24 17:03
引退セレモニーのあと泣きながら引き揚げる長嶋茂雄
10月12日、中日の20年ぶりのリーグ優勝が決定。V10が消滅し、ヤクルト戦が行われた神宮球場内で長嶋の会見が開かれる。隣には背番号77の川上もいる。「今年はプレーしていて肉体的な衰えを強く感じることがありました」と、マイクを前にミスターはついにその言葉を口にする。
「できることならば、明日のペナントレース最終ゲームにおいて、ファンの皆様の前でひとつ“引退”ということを皆さんにお話しして、そしてお別れの感謝の言葉を述べさせてもらいたい。そういう心境でございます」
「“脚本”になかったグラウンド一周」
徹夜組のファンが後楽園球場に長蛇の列を作った13日の中日戦は雨天中止。仕切り直しのダブルヘッダーが10月14日に組まれた。なお中日は同日に名古屋で優勝パレードが行われるため、若手主体のメンバーだ。ちなみに誕生した翌日にスポーツ新聞の一面を飾ったナガシマジュニアこと長男の一茂は、父から引退試合の始球式を打診されるも断り、歯医者に行ったという。夫人も球場で見ると取り乱してしまうからと、自宅でのテレビ観戦を選んだ。
第1試合は正午プレーボール。後楽園、いや日本中の目を釘付けにしたメークドラマの主役は、第2打席で球場全体から手拍子が鳴り響く中、左翼ポール際に飛び込む通算444号。6回と7回にも安打を放ち猛打賞を記録すると、7回には王も49号3ランを右翼席に運び、通算106度目のONアベックアーチで華を添えた。翌15日のスポニチ一面には「秋晴れ後楽園に惜別5万人大観衆」という見出しに加え、「17年目の男泣き。“脚本”になかったグラウンド一周」とある。そう、第1試合が終わり、長嶋は自身の強い希望で球場のファンに直接挨拶をするため、一塁側ベンチを出てライトの外野方向へ歩き出した。事前予告なしの感謝のケジメだ。途中でポケットからタオルを取り出し涙を拭う背番号3。観客はその背中を見つめ、ただ前のめりで拍手を送った。仕事をサボり駆けつけた、プロ入り前の落合博満もその中にいたという。
「我が巨人軍は永久に不滅です!」
第2試合、巨人は惜別のV9オーダーを組む。打順に悩んだ1年だったが、このラストゲームばかりはもちろん川上巨人の象徴「3番ファースト王、4番サード長嶋」だ。4番長嶋は、5回の第3打席でセンターへ通算2471安打目を弾き返す。8回裏、10対0の巨人リードで迎えたプロ9210打席目、2球目をひっかけ遊ゴロ併殺打。美しくも儚い芸術的ゲッツーだ。そして、試合後セレモニーであの有名な台詞が生まれる。