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「我が巨人軍は永久に不滅です!」「ナガシマァ~」涙、涙、涙…日本人にとって38歳長嶋茂雄の引退はどんな衝撃だったか?
posted2021/06/24 17:03
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph by
KYODO
「ぼく、いくつに見える?」「31、2歳に見えます」
オレはまだ終わらない。キャンプからチームスタッフが驚くほどの練習量で体を鍛え直したが、開幕前に後楽園球場のロッカーが、川上監督やコーチ陣がいる幹部室へ移動する。己の意志に反して着々と埋められていく外堀。それでも大一番に滅法強いお祭り男は、プロ野球記録の5年連続10本目の開幕アーチで派手なスタートを切る。だが、これまで幾度となく不可能を可能にしてきた背番号3も、年齢だけには勝てなかった。
5月にはスランプに陥り、6月4日のスポニチ一面は「最後の大勝負!長嶋」。「悔いなき現役へ燃える夏」「持病の腰痛、17年間隠してきた弱点」といった見出しも確認できる。6月13日の中日戦でついにスタメン落ちし、7回に代打で登場。20日の同カードでは新人時代の球宴以来という1番サード起用。川上監督も試行錯誤を繰り返し、7月13日の阪神戦での第7号本塁打が46日ぶりの一発だった。
17年連続のファン投票選出となったオールスターでは通算7本目のアーチ。全パの張本勲が「引退なんてこと考えないで、あと3年がんばってくれませんか」と、遠慮しつつ打撃のアドバイスまでくれた。しかし、どんな状況になっても不思議と悲壮感がないのがミスターである。雑誌「平凡」74年8月号では、アイドル天地真理との対談で「ぼく、いくつに見える?」なんつってまるで合コン風に問いかけ、「30すぎてますよネ。31、2歳に見えます」と真理ちゃんに褒められてご機嫌の38歳チョーさん。
ついに口にした言葉「お別れの言葉を…」
後半戦、背番号3がスタメン落ちすると、後楽園球場には「ナガシマを出せぇ!」というファンの声がしきりに飛び交った。ドキュメンタリー映画が製作され、各雑誌は競うように特集を組んだ。長嶋茂雄はGNP世界第2位を占めたエコノミック大国日本のシンボルという論調も目立つ。ミスターは10月9日の大洋戦で17年連続100安打を記録、盟友の王は2年連続三冠王に向けて打ちまくり、チームはV10を目指し懸命に最後まで粘ったが、あと一歩及ばず。