たしかに川崎フロンターレの取り組みは秀逸である。選手のタレント性、地域性、社会性、公共性の4つのポイントを活かした事業やイベントでファンを増やしている。競技そのものだけでなく、そういったイベント活動がスポーツを知ってもらう、ファンになるキッカケを与えているのだ。それを身を以て経験した卜部だからこそ、フロンターレの取り組みは陸上にもヒントになると考えている。

「サッカーをまったく知らなかった私が、こんなにサッカーを好きになったんです（笑）。陸上や1500mを知らない人にもそういう地域還元のイベントやOTTとかで陸上は面白いな、1500mって楽しいって思ってくれると嬉しいですね。そこから新たに陸上を始めたり、1500mを走るキッカケになってくれたらなお嬉しいです」

　アスリートと言えば、現役時代は自分のことにフォーカスする選手が多い印象だ。だが、卜部はなぜ、ここまで陸上のために何かをしたいと考えるのだろうか。なぜ、1500mへの思いがこんなにも強いのだろうか。

「たぶん……人気の高い駅伝やマラソンをしていたらこういう考えというか、発想にはならなかったと思います。中距離をやってきて、徐々に知られていくなかで、もっと1500mを知ってもらいたい、楽しさをわかってほしいという思いが強くなっていったんだと思います」

　卜部は、優しい笑みを浮かべて、そういった。

©Asami Enomoto

フロンターレのように「自分も選手として、そうありたい」

　今でこそ中距離がようやく注目されてきているが、少し前は短距離やマラソン、駅伝が主で中距離への関心はそれほど高くなかった。そうした冬の時代を知る卜部だからこそ、より多くの人に知ってもらいたい、関心を持ってほしいという気持ちが強いのだろう。

　ちなみにフロンターレで尊敬する人は中村憲剛氏、好きな選手は田中碧だそうだ。卜部からはとにかくフロンターレ愛の強さを感じる。リハビリしていた時は、施設内に飾られた長谷川竜也のサインを見ながらモチベーションを高めていたという。

「自分がそういうパワーをもらっているのってすごいこと。自分も選手として、そうありたいと思っています。それが私の目標の1つです」　

　そのためにはフロンターレがそうであるように、まず強さを証明する必要がある。東京五輪を目指す上で最後のチャンスとなる日本選手権は、もう目前だ。

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