「写真の投稿とかで、私がひとつ難しいなと感じたのは、選手の鍛え抜かれた肉体の美しさは陸上を知らない人に知ってもらうためのキッカケにもなるということです。これは陸上に限らず、水泳やボクサーなどにもそういう側面があると思いますが、そこに悪意があるのか、ないのかはすごく判断が難しいなと。私も雑誌で取り上げていただいたことがあるのですが、ありがたい・嬉しいと思う人もいれば､撮られ方などによっては嫌な思いをする選手もいると思うので……」

　さらに卜部は、被害を恐れて自主的に過剰な規制を設けることで、SNSなどのソーシャルメディアで選手の発信が自由にできなくなることに危惧を抱いている。

「嫌な思いをしないために、選手のSNSを良しとしない実業団もありますが、それは可能性を狭めてしまうのではないかなと思うんです。選手は競技だけしていればいいという見方もありますが、『どんな思いで、どんな取り組みをしているのか』はメディアを通してだけではなく、個人として発信することも、選手個人と陸上界を応援していただくためにすごく大事なことだと思っています」

©Asami Enomoto

「私、川崎フロンターレが大好きなんです！」

　クラブチームという異色の進路を選び、東京五輪を目指しながら、女性アスリートが取り巻く問題にも考えを巡らしてきた卜部だが、これもすべては「陸上界、とりわけ中距離の普及」を願ってのことだ。例えば、「オトナのタイムトライアル（OTT）」という企画にも熱心に参加している。

「市民ランナーの方などが参加する記録会なんですが、1500mと5000mがあるんです。欧米では1500mって大会のトリを飾る種目で、すごく人気があるんですよ。みんなで盛り上がってお祭りみたいな雰囲気になるんです。OTTもマイクパフォーマンスがあったり、近所の方々が見に来られたり、とてもいい雰囲気です。走ることを勝ち負けだけじゃなく楽しんで陸上をする人を増やしていきたい」

　卜部が競技だけではなく、陸上や1500mの楽しさを伝える啓蒙活動に積極的なのは、自分自身がある競技を好きになった経験があるからだ。

「私、川崎フロンターレが大好きなんです！」

　少女のように瞳をキラキラさせて、その愛を語ってくれた。

話しぶりからも「大の川崎フロンターレ好き」であることが伝わってくる　©Asami Enomoto

　卜部がフロンターレを好きになるキッカケになったのは、弟の友人であるタビナス・ジェファーソン（現水戸ホーリーホック）がフロンターレに加入したことだった。友人を応援することからフロンターレを見るようになるとチームへの愛情が徐々に深まっていったという。

「選手それぞれの取り組みや練習、地元の商店街を回る活動や陸前高田でのボランティア活動など、そういうのをYouTubeやテレビで見たんです。こんな前からこんな取り組みをしていたんだ、すごいなって思って見ていくうちに、好きになっていきました（笑）」

　フロンターレを好きになっていく中で、チームの取り組みに面白さを感じ、自分たちの活動の中にすでに取り入れているものがある。「TWOLAPS」のホームページにある選手プロフィールには157個ものQ&Aが書かれているが、それはフロンターレのホームぺージにあった詳しすぎる選手プロフィールをお手本にしている。

【次ページ】　フロンターレのように「自分も選手として、そうありたい」