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「お前向いてねえよ!」コーチの父親とケンカも…陸上界を震わす153cmの女王・田中希実「5000m分割」の発想法
posted2020/11/04 17:00
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph by
Takeshi Nishimoto
そこで、誌面では掲載できなかった健智氏が考える『田中希実 東京オリンピックまでの戦略』をお届けする。
田中希実の快進撃が止まらない。
2020年7月8日のホクレンディスタンス深川大会で、福士加代子が持っていた女子3000mの日本記録を更新すると、翌月8月23日のセイコー・ゴールデンGPでは女子1500mの日本記録を14年ぶりに更新して、陸上ファンを驚かせた。
10月24日(土)に行われた木南道孝記念陸上競技大会では800mに出場しゴール前で転倒するも優勝。そのわずか3日後。27日(火)に行われた東京陸協ミドルディスタンス・チャレンジで1500mに出場し、ここでも優勝を果たすなど、女子中長距離界を湧かせている。
「1500mと3000mはたまたま」
800m、1500m、3000m、5000mのマルチランナー。そう呼ばれることも多いが「本命は5000mです」と話すのは父であり、コーチを務める田中健智氏だ。
「本人がどこまで分かっているかはわかりませんが、1500mと3000mはたまたま記録が出ただけ。目指すところはそこじゃない」
10月27日に1500mへ出場したのも、チームメイトの後藤夢の出場に合わせて。コーチとしては「せっかくだから一緒にエントリーしておくか」という程度だったという。
「だから本人には『潰れろ』って言っているんです。今年最後の1500mだし、あとがどうなろうとええやんって。例えばラスト300mで潰れようが、その300mを来年のテーマにすれば、もっと面白い記録が出るかもしれない。来年に向かって足りないところをもう1回見つけるための1500m出場だったんです」
中1のとき、100m18秒だった
健智氏の理論は、これまでの陸上界の常識からすると“異色”と言っていいだろう。だが、市民ランナーであった妻を2度も北海道マラソン優勝に導き、田中希実を日本記録保持者にまで育て上げており、そのメソッドには確固たる自信をもっている。
「希実と練習でぶつかるときって、あいつが『ベタな練習をすれば手っ取り早い』ってすぐに言うからなんですよ。確かにそれでも速くなるんですけど、そうじゃないだろうと。みんながやっているメニューだからってそれをなぞるのではなく、こだわりを持ってやらないといけないんです」