1500mは鐘が鳴ってからが勝負と言われるが、本当に何が起こるか分からない面白さがある。だからこそ最後に上げて、出し切るだけの余力が必要になる。

「ラストを上げるためには、スピードと持久力が課題です。そのために走る距離を増やして持久系の走力を高めてきました。もう2年前から言っているのですが、ラスト45秒の壁を破りたいと思っています」

　卜部が参加標準記録を破って優勝すると、女子1500mの五輪出場は史上初となる。まさに歴史的快挙だ。

「五輪選手になりたいというのが小学校の頃からの夢でした。1500mに日本人女性選手が出場したことがないので、誰も見たことがない景色を見てみたい。なにより、私が五輪に出ることによって家族やチームメイト、ファンのみなさん、応援してくださっているいろんな方が喜んでくれると思うんです。それに私が走ることで中距離のことを知っていただくキッカケにもなるはず。そういう使命感みたいなものが今、私の中に芽生えてきています」

陸上界のあるある「部活動で始めました」ではない

　卜部が誰も見たことがない世界に憧れるのは、小5の時、クラブチームで陸上を始めたことが大きく影響している。

「私は小学生の頃からクラブチームに入って、年齢に関係なく、学生から社会人までいろんな人が陸上を楽しむ姿を見て来ました。生涯かけて楽しめる人が増えていくと陸上がもっと身近になり、発展していく。生活を豊かにする陸上に触れることができたのは大きかったですね。

　また、中距離は高校、大学を卒業してやめてしまう人が多いんですが、社会人で競技を続けている人を見てきたので、長いスパンで競技を考えることができました。そういう世界を教えてくれるのは、クラブチームの良いところかなって思います」

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　具体的にイメージできるものがあれば、先を想像するのは容易だ。卜部は、競技者としてやりたいこと、なりたい姿がクラブチームを通して見えていたからこそそこに向かって成長していけたのだろう。また、卜部は「考える」こともクラブチームで学んだ。

「中学生や高校生の人たちの練習する姿を見て、そこから学んで練習や目標を立てられるようになりました。ただ、与えられたものだけではなく、聞いて、考えて、自分の当たり前を越えていく。そういう経験が今の陸上のスタイルにつながっています。よく『人と違うことをするよね』って言われるんですが、そこでの経験が活きているのかなと思いますね」

実業団の誘いを断って……

　東京学芸大学を卒業後、卜部が選択した進路も実業団ではなく、クラブチーム「TWOLAPS」だった。男子中距離の館澤亨次（DeNA）、女子長距離の新谷仁美（積水化学工業）ら日本のトップクラスの選手が在籍し、ロンドン五輪800m日本代表の横田真人が主宰する陸上チームである。

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