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目の前で“田中希実が日本新記録ゴール”から1年…26歳卜部蘭が「五輪で結果を出すこと」にこだわる理由 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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photograph byAsami Enomoto

posted2021/06/25 11:00

目の前で“田中希実が日本新記録ゴール”から1年…26歳卜部蘭が「五輪で結果を出すこと」にこだわる理由<Number Web> photograph by Asami Enomoto

24日から開幕する日本選手権で東京五輪出場を懸けたレースに臨む卜部蘭さん(26)

 日本の陸上界では、中・高・大は部活動、卒業後は実業団で活動することが王道であり、それが独自文化として根付いている。卜部にも多くの実業団から勧誘の声がかかり、実際に話を聞いて練習環境を見学させてもらったそうだが、最終的に選択したのはクラブチームだった。卜部はその理由について、「私は、どこでやるかよりも誰の元でやりたいのかが大きかったんです」と話す。

「大学時代は練習のメニューを自分で立てて、結果を出すことの楽しさを感じることができた一方で、行き詰った時に自分だけで乗り越えないといけない難しさも感じていました。横田さんは、コーチをつけずに800mで五輪に出て、自分自身で道を切り開いてきた方なのでいろんなノウハウを持っていますし、選手と一緒に考えてくれる人。私にとってはそういう存在がすごく大きかったですね。

 あと、NIKE TOKYO TC(「TWOLAPS」の前身)が一からのスタートで、横田さんから『一緒にチームを作っていこう』という言葉を掛けてくださったこともすごく自分の中では大きなモチベーションになりました」

 今は、学生時代から自分の練習を組み立てている選手が多い。ただ、うまくいかなくなった時、監督やコーチの指導が必要になるが、その時の言葉が重要になる。卜部が横田に師事しているのは、修正するポイント、伸ばすべきポイントを的確にアドバイスしてくれることはもちろん、フォローや声掛けを含めたきめ細かい指導を実現しているからだ。

「横田さんの凄いところは、一人一人を見てくださるというところです。例えば声掛けひとつにしても選手によって言葉を選んで、タイミングを変えているんです」

サラッと「蘭ちゃん、優勝できちゃうよ!」

 卜部は、2018年日本選手権での1500m、僅差で2位に終わった。そこからリベンジするために努力をし続け、翌年、大会の1週間前の練習を終えた後だった。

「蘭ちゃん、調子いいから日本選手権800(m)もいけるよ、優勝できちゃうよ!」

 卜部は、横田にそう声をかけられた。

「サラッと、そう言われたんです。でも、その時の私にはその言葉がフッと自分の中に入ってきて、『800mもいけるかも』と自然にそういうマインドになれた。選手によっては1週間前に言われて余計に緊張してしまう人もいるんですけど、横田さんはフッと心に入ってくる声掛けが本当にうまい……私は言霊と言っています(笑)」

 横田の言霊は、卜部にポジティブな波動を送り、それはついに現実になった。2019年の日本選手権で卜部は800m、1500mの二冠を達成したのだ。

【次ページ】 練習メニューは「相談して詰めていく」

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