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「俺、続けられないかもしれないな」 山縣亮太が日本新記録を出すまでに味わった故障と“取り残される”苦しみ 

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折山淑美

折山淑美Toshimi Oriyama

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2021/06/12 11:01

「俺、続けられないかもしれないな」 山縣亮太が日本新記録を出すまでに味わった故障と“取り残される”苦しみ<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

布勢スプリントで9秒95の日本新記録を出した山縣亮太。9秒台へたどり着くまでの道のりは長かった

高野コーチ「身体感覚が変わってきている」

 高野コーチはその後の山縣の変化を「ひとりでやっていた時とは違い、寺田や学生と練習している時に笑顔が見られるようになった。また僕や寺田がよく話していたタイミングという言葉も、最初は『そのイメージがわからない』と言っていたが、最近はよく口にするようになった。その辺は身体感覚が変わってきていると思います」と話す。

 持ち前の探求心を駆使してひとりで走りを追求してきた山縣だが、仲間が出来たことで心に余裕が出てきて新たな感覚にも目を向けられるようになったのだろう。今年4月の織田記念の前日練習でも、新しいスタート姿勢を試しながら、高野コーチと笑顔を交わす姿も見えていた。

「東京五輪の準決勝のつもりで決勝を走る」

 東京五輪を目指す今年、山縣がまず目指したのはすでにサニブラウンなど3人がクリアしていた五輪参加標準記録の10秒05を突破し、日本選手権では彼らと同じ土俵で戦うことだった。そのために2月下旬からレースに出ていたが、4月の織田記念ではその手ごたえをつかんだと笑顔を見せていた。決勝ではスタートは少しもたついたが、中盤からは鋭い加速で小池や桐生を突き放し、追い風0.1mで10秒14を出していた。その加速の良さを高野コーチに話すと、「あの加速が今年やろうとしていることです」と笑顔を見せていた。

 そこからの課題は、スタートからの1次加速へのつなぎをもっとスムーズにすることだった。山縣はそのためのスタートのいい感覚を、5月下旬につかんだという。さらに鳥取入りした6月4日の練習でも再現でき、「これならいける」という感覚をつかんだ。

 最初の予選はスムーズな加速で10秒01。風は多田修平や桐生が走った第1組と第3組は追い風2.6mの参考記録だったが、山縣の第2組は1.7mと運が向いてきた。

 参加標準記録突破で決勝を棄権する選択肢もあったが、「スタートで少し失敗をしたのでそれを修正したい」という理由と、「世界で戦うにはこのくらいの記録を2本揃えなくてはいけない。東京五輪の準決勝のつもりで決勝を走る」という思いで、出場を取りやめる気持ちは一切なかった。

【次ページ】 自己新を出した多田と「勝負を意識していた」

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