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「俺、続けられないかもしれないな」 山縣亮太が日本新記録を出すまでに味わった故障と“取り残される”苦しみ
text by
折山淑美Toshimi Oriyama
photograph byKiichi Matsumoto
posted2021/06/12 11:01
布勢スプリントで9秒95の日本新記録を出した山縣亮太。9秒台へたどり着くまでの道のりは長かった
自己新を出した多田と「勝負を意識していた」
そんな攻めの気持が決勝では出た。スタートは予選より少し力強さがあり、隣のレーンの多田に引けを取らない飛び出しになった。そして中盤からは並走になったが、ラスト20mくらいから抜け出し、10秒01の自己新を出した多田に競り勝った。山縣は「多田くんがすごく近かったので、勝負を意識してタイムは正直気にしていなかった。ラストまで集中力を切らさず、自分の走りのペースを崩さないことを意識していたので、それがうまくハマってくれた」とレースを振り返ったが、勝負に徹する中で記録を出せたのは大きな収穫だった。
それでも山縣は、レースをこう振り返る。
「高野コーチとは追い風の中でもタイミングを逃さず走ろうと話したが、決勝ではそれが出来ていた部分とできなかった部分があった。特に最後の部分の走りは足が少し後ろに持っていかれる感じでフワフワしていたので、そこはまだ練習不足だと思う」
100mでも終盤はスピードでストライドが広がりすぎて流れてしまう。最初に10秒00を出した時は、そこでもしっかり走りを刻むことを意識してパワーアップをし、その成果が出せた。その感覚を今回のスピード感の中で出せれば、無風近くでも同じタイムを出せると考える。世界の準決勝で戦うためには、そんな走力が必要だと思うからこその課題だ。
9日の会見で「9秒台の実感はあまりなく、意外と変わらない日々を過ごしていますね」と苦笑しながら話したように、山縣はもう次へと意識を向けている。
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