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3カ国語で答えるフェデラー、言い返すシャラポワ…大坂なおみが拒否した「記者会見」では何が起きているのか?
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byAFLO
posted2021/06/10 11:03
大坂なおみが拒否したことで注目された“記者会見”。これまで選手と記者はどんなやり取りをしてきたのか?
1936年のフレッド・ペリー以降、ウィンブルドン優勝者が出ていない英国の期待を、彼は一身に背負ってきた。それにも関わらず、「勝てばイギリス人、負ければスコットランド人」と揶揄されるほどに、イングランドの人々は敗れる彼に冷たかったという。
ただ、『The Guardian』紙等に寄稿するテニスジャーナリストのサイモン・キャンバースは、「アンディは、多くの英国記者と友好的関係を築いてきた」と言った。
「私たちメディアの多くは、アンディしか英国人選手がいない時にも、世界中を旅して取材してきた。その事実をアンディは理解していたし、彼のエージェントも優秀だ。記者との確執が生じた時は話し合いの場を設けたり、食事会をセッティングしてくれたこともある」
マリーにとってメディアとの距離感とは、世間との関係性そのものだったのかもしれない。
マリーが優勝の瞬間に見つめた先には……
2013年。英国人選手として77年ぶりにウィンブルドンを制した時、マリーはラケットを放り投げ、キャップをはたき落とすと、身体を翻し客席の一点を凝視した。
あの時、どこを見ていたのか?
優勝会見で問われたマリーは、ややシニカルな笑みを浮かべて、こう言った。
「あの時に僕が見ていたのは、何故か、プレス席に座るあなたたちだったよ。
たぶん、僕の中の潜在的な何かが、そうさせたんだろう。ここ何年も、僕らの関係は難しいものだった。あなたたちにとって、僕がこの大会で勝つことがいかに重要だったかは理解できる。もちろん、僕はベストを尽くしてきた。これ以上は無理だってくらいに、頑張ってきた。
マッチポイントまでは、勝ったらプレスの方を向こうなんて、全く思っていなかった。でも勝利の瞬間、そこが、僕の視線を捕らえた場所だったんだ」
咆哮をあげ、幾度も両手の拳を振り上げるマリーの双眸に映っていたもの――。それは、プレス席でキーボードを叩く記者たちの向こうにいる、英国の人々だったのかもしれない。
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