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「私たちの父は違った」なぜ未経験者がウィリアムズ姉妹を育てられたのか?…映画『ドリームプラン』が描く“テニス界の毒親問題”
posted2022/02/23 17:01
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Getty Images
今月23日、映画『ドリームプラン』が日本で公開される。原題は『KING RICHARD』――荒んだスラム街からビーナスとセリーナというテニス界の女王姉妹を育てた父、リチャード・ウィリアムズと家族の奇跡の物語だ。
映画「ドリームプラン」が描く“スポーツ界の子育て”
一足早く試写会を見たが、期待通りのおもしろさだった。今年のオスカー最有力と言われている主演のウィル・スミスは、ビーナスが「父の魂が乗り移っていたかのよう」と感心しただけのことはあって、少し背中の曲がった姿勢や歩き方など見た目の特徴をよくとらえているのはもちろんのこと、60年代まで人種差別政策がとられていたアメリカ南部出身という生い立ちが形成した人格を、ときに悲しく、ときにたくましく、見事に表現していた。
もちろん、内容をすべて鵜呑みにするべきではないし、リチャードの最初の妻との間に生まれた5人の子の中の長女は、その家族の存在を完全に消し去ったこの映画に相当な不快感を示しているともいう。父親のことは「私の中ではとっくに死んだ人」と恨んでいるそうだ。結局3度の結婚で作った3つのファミリーに、のちに起こるさまざまな災いや事件を知って見れば、そう痛快で感動的な家族物語で終わらないこともわかる。
それはそれとして、スポーツの世界での子育て、天才キッズの育成のあり方という視点からも、きわめて示唆に富んだ作品だ。
なぜウィリアムズ父は「ジュニアツアー」を避けたのか
たとえば、ビーナスとセリーナが世界のジュニアツアーに一度も参戦しなかったことは、よく知られている。大坂なおみの父も参考にしたということで話題にもなった。それは、早くから注目されて研究されることを避けるためだったと理解していたが、劇中でそのようには描かれていなかった。これは最初からリチャードの計画にあったわけではない。
実際、ビーナスは10歳からUSTA(全米テニス協会)のジュニアツアーに参戦し、なんと初試合から一度も負けず63連勝した記録を持つ。南カリフォルニアの12歳以下のナンバーワンだった。しかしリチャードは、ビーナスが11歳のときにジュニア大会への参加を止めさせてしまう。