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五輪代表入りを果たした競泳・五十嵐千尋が25歳で“転身”を遂げた理由 「自分の中で、ちょっと無理なんじゃないかと」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2021/04/17 17:00
日本選手権女子100m自由形は池江璃花子(左)が優勝し、五十嵐千尋は3位に入った
「今まで背負っていたものを降ろしてくれた」
「ISLでタフなレースを泳ぐ機会を与えて頂いて、自分の中で50mでも戦えるという気持ちになり、それがスプリントへの転機になりました」
今回の日本選手権を終えてこのように振り返った五十嵐は、さらに意外な言葉を継いだ。「ISLという試合が、私の中で今まで背負っていたものを降ろしてくれた」というのだ。
初出場を果たした13年世界選手権から、リオ五輪、そして19年の世界選手権まで、大舞台でいつも泳いできた400m自由形に自信を持てなくなっていることに気づいたのは昨年だった。
東京五輪の女子400m自由形の派遣標準記録は4分07秒10。五十嵐のベストタイムである4分07秒52からかけ離れているわけではないが、「自分の中で、ちょっと無理なんじゃないかと思っていた」という。
「自信を持って泳げる50mと100mを泳いだ方が」
ちょうど新型コロナウイルス感染者増で先行きが見えにくくなっていた時期。不安を抱えつつ、また、抑えつつ練習を続けた後に訪れたのが、ISLへの参戦機会だった。世界の強豪たちと数多くのレースで競い合うことで、迷いが晴れたという。
「400mに不安があるなら、自信を持って泳げる50mと100mを泳いだ方が、200mにもつなげていけるのではないか。そう思い、ウエイトトレーニングや陸上トレーニングで強化をしていくようになり、(昨年)12月以降は短距離をメインにしていきました」
こうして始まったのが25歳からのスプリンター転身だ。しかも、東京五輪代表選考会まであと4カ月ほどというタイミングでの思い切った決断。
「こういう風に変えられたのは、新型コロナウイルス問題で五輪が延期になって考えさせられることが色々あったことが大きいと思う。延期になっていなかったら、今までと同じようなレースプランで400m自由形にも出ていたと思いますから」