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「後悔はあります」元五輪スイマー伊藤華英が語る“生理と女子アスリート”の課題「生理で休んだら負けちゃう…ではなく」「我慢一択ではない」
posted2024/01/12 17:01
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Kiichi Matsumoto
競泳の日本代表として2008年北京五輪と12年ロンドン五輪に出場し、27歳で現役を退いた伊藤華英さん。2021年から始めた、女子学生アスリートの生理に関する課題と向き合う「スポーツを止めるな『1252プロジェクト』」は大変な評判を呼んでいる。
これまでタブーとされてきた課題を扱うこのプロジェクトは、伊藤さん自身が現役時代に直面し、葛藤した経験に基づいたもの。
「苦しみや努力を人に見せる文化があまりない中で生きてきているのがアスリート。ライバルに弱みを見せたくない場合もあります。なかなか知識をシェアする環境にないのが現状ですが、生理は女性の一生の健康に関わります」と伊藤さんは言う。
きっかけはリオ五輪の中国選手の発言
生理の課題に関する正しい知識をみんなが身につけ、女子アスリートがさまざまな選択肢を持てるようになることを目指すこのプロジェクトを立案するきっかけとなったのは、2016年のリオデジャネイロ五輪だった。
競泳の中国代表として女子100m背泳ぎに出場して銅メダルに輝いた傅園慧(ふ・えんけい)選手が、数日後の女子4×100mメドレーリレーでタイムを落として4位にとどまった際、テレビのインタビューで「生理中で良い泳ぎをできず、チームメートに謝った」と語ったことが大きな話題となった。
「こういう発言をする選手が出てきたんだ。私の時とは変わってきたなぁ」
中国選手のコメントにハッとさせられた伊藤さんは、生理に悩まされた現役時代のことを思い出し、ナンバーウェブの担当編集者に伝えた。こうして翌2017年にナンバーウェブで女子アスリートと生理についてのコラムを発表。タブー視されてきた題材だけに発信する際は相応の覚悟があったが、反響は想像の範囲を超えていた。
世の中には生理に対する意識の変化を求める兆しが確実に芽生えていた。
そもそも伊藤さんが現役だった2000年代~2012年頃は、生理の悩みを口にするという雰囲気がなかった。
「まだ初経が来ていない頃から水泳を始めて、生理とともに競技人生を歩んでいくのが当たり前という考えでした。中学生の頃、生理で先輩が休んでいると『これでは強くならない』と思ったこともありました。生理で休むなんてありえない。生理で休んでたら負けちゃう。そう思っていました」
五輪に向けて生理周期をコントロールしたが…
伊藤さんが語るように、競技によっては1日、2日休むだけで繊細な感覚の部分に変化が起きると言うトップアスリートは少なくない。しかし、生理が重い日は休んだり練習メニューを減らしたりしようという意識がなかった根本的な理由は別のところにあった。