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楽天・田中将大「伝説の8球」を振り返る 涌井秀章「ダルビッシュや僕よりも大人な投球しますよね」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS.
posted2021/03/27 11:04
13年9月26日。9回に登板、西武を破ってパ・リーグ初優勝を決め、喜ぶ田中将大
この大勝負をベンチから見守っていた1年目の則本昂大は、9年目を迎える今も「なかなか真似できるものではない」と唸る。
「田中さんのその能力は、人よりも飛びぬけているんで。僕もこんだけやってきましたけど、今の現役で『あの状況で、あのピッチングができるか?』といってできるピッチャーは他にいないと思っています」
涌井「ダルビッシュや僕よりも大人な投球するんじゃないか?」
そしてもうひとり、この試合を別角度から見ていたのが、当時、西武に在籍し、8回から2イニング投げていた涌井秀章だ。
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「楽天が逆転した(7回)あたりから、田中が準備を始めたっていう。この時の西武は4位だったんで、あんまりお客さんが入ってなくて。でも楽天は、マジック2とかだったんで、一塁側とかライトスタンドのファンがすごかった覚えはありますね」
13年当時は救援に回っていたが、涌井は本来「先発完投型」の投手だ。
1試合投げ切るとなると130球前後を費やす。したがって、力の配分などのゲームメークが不可欠かと思いきや、涌井は「全然考えてないですよ」とかぶりを振る。
それと同時に、過去3度、投げ合った経験のある田中の思考は、自身とは別物かもしれないとも推察していた。
「先発ピッチャーは、そんなこと考えてないと思うんですよ。自分の場合はピンチでしか組み立てはしないんで。あいつ(田中)こそ、そういうプランとかあるんじゃないかって思いますけどね。普段は打たせて取るピッチングをしてるけど、ピンチの時だけ目つきを変えて相手を睨みつけるように投げて、三振を取りにいくって感じだったんで」
それはまさしく、あの優勝を決めた西武戦での8球である。ただ、涌井から言わせれば、田中のギアチェンジの特異性はピンチでの「冷静さ」にこそあるのだと分析する。